しばしお待ちを...

2012年12月29日土曜日

俳句三十句「泥匠日記」/ 風花銀次

泥匠日記         風花銀次

鳴く蟲にいひおよびけり壁を塗る
鏝を洗ふ桶ふたつとも秋の水
漆喰の鶴がはねかく小春かな
しぐるゝや壁の鏝繪の虎も壁も
建てさして餠つく音を入れにけり
短日のおのが影塗る左官かな
塗り込めておのれなくなる左官かな
さがりや土壁ほどけつゝながらふ
初凪や地の鹽としてなまこ壁
春の土春の水もて結ぼほる
あたゝかや鏝あたりきに動きだす
うらゝかやなでてやらねばたゞの土
春風や手斧てうなはつりの梁ひとつ
おもしろやすさにまざれるこぼれ梅

2012年12月26日水曜日

蟲雙紙 015 「文机のよこに…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十五〉       風花銀次

文机のよこに、あをきかめのおほきなるをすゑて、櫻の若葉いみじうしげりたる枝の五尺ばかりなるを、いと多くさしたれば、文机のうへに葉こぼれ落ちたる、ひるつかた、雌赤緑小灰蝶めすあかみどりしじみの、少しなよらかなる終齢幼蟲、のこりぎくのかさねたるごとき、いとあざやかなるが這ひまはりたり。書く手をやすめ見入りてあれば、茶をもてきたる家人、有職故實も知らぬげになどいふ。

2012年12月24日月曜日

小説「曼荼羅風」3 -牛ほめ- / 齋藤幹夫

2012年12月19日水曜日

蟲雙紙 014 「八幡社の…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十四〉       風花銀次

八幡社のみんなみを向きて立ちたる鳥居には、六本脚の、群るるものどものおそろしげなる、脚長蜂の巣ぞかかりたる。参詣のをり、刺されたるひとありて、弓矢八幡ゆゑと、にくみなどしてわらふ。

2012年12月18日火曜日

緑月亭&齋藤幹夫「二律背反」


二律背反        俳句◎緑月亭            短歌◎齋藤幹夫 棘が葉に摘むもをかしきべにの花 言の葉をやいばに變へて一身に返り血浴びむ覺悟はありや 死してまでなに抱へ込みたりや蝉 死してしかばね拾ふ者ゐて油蝉なほも虚空に獅噛みつきたる 瓜つるりとして憎たらし戀 敵こひがたき 八百八の瓜賣るあにいれての祭と後の情事と

2012年12月15日土曜日

ひとり兎園會 2 「肉人」/ 齋藤幹夫

 ひとり兎園會 ―其之貳 肉人―                       齋藤幹夫

  神祖、駿河にゐませし御時、或日の朝、御庭に、形は小兒の如くにて、肉人ともいふ  べく、手はありながら、指はなく、指なき手をもて、上を指して立たるものあり。見る  人驚き、變化の物ならんと立ちさわげども、いかにとも得とりいろはで、御庭のさうざ  う敷なりしから、後には御耳へ入れ、如何に取りはからひ申さんと伺うに、人見ぬ所へ  逐出しやれと命ぜらる。やがて御城遠き小山の方へおひやれりとぞ。或人、これを聞て、  扨も扨もをしき事かな。左右の人たちの不學から、かかる仙藥を君に奉らざりし。此れ  は、白澤圖に出たる、封といふものなり。此れを食すれば、多力になり、武勇もすぐる  るよし。                         「一宵話・卷之二」より  牧墨僊

2012年12月12日水曜日

蟲雙紙 013 「山は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十三〉       風花銀次

山は、浅間山。妙高山。雨飾山。白馬岳。雪倉岳。てふてふ舞はんとをかしけれ。祖母山。茂見山。大崩山、よそより見るぞをかしき。国見岳もをかし。ちちははのそだててくれし恩おもひ出でらるるなるべし。時雨岳。小川岳。

2012年12月7日金曜日

「蟲雙紙」を現代語訳しました

非常に奇特な方がございまして「蟲雙紙」の文語部分を現代語訳してほしいなんておっしゃいますので、訳しました。といっても、わざわざあらためて単独ページをつくるほどでもございませんから各段のコメント欄にて披露しています。
なんだかオネエ言葉になってんのもありますが、もとが「枕草子」のパロディーだってのを意識しすぎちゃったんでしょうかねえ。まあ、よしとしましょう。
そんで、意訳を踏まえたうえで、あきらかな誤訳がございましたら、というのもおかしな話かもしれませんが(なにしろ自分で書いたものを自分で訳してるんですからね)お知らせください。
「文語文のほうがおかしい」てことも含めてご教示いただけたらなによりです。はい。

» 「蟲雙紙」一覧

2012年12月5日水曜日

蟲雙紙 012 「淺葱斑蝶はひむがしをば…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十二〉       風花銀次

淺葱あさぎ斑蝶まだらはひむがしをば、ふるさとといふ。
劍山のはるかにたかきを、共連ともづれ「いくひろあらむ」などいふ。知らざれば、しばし思案して「の山ほどにはなからむ」とのたまひしを、土佐國にてやすみしをり、旅の無事を祈りて、ささをくだされ給へるに、したたかにゑひたれば、ゆゆしうたかく舞ひけり。
さめたるのちに、「富嶽をも越えけむ」といへば、「メートルが上がりたる」とわらひ給ふ。
「日向國ひうがのくにでは燒酎し。琉球國りうきうこくでは泡盛欲し」といひけむこそをかしけれ。

2012年12月3日月曜日

ひとり兎園會 1-2 「虛舟」 二次會 / 齋藤幹夫

 ひとり兎園會 ―其之壹 虛舟― 二次會                       齋藤幹夫

  人間は到底絶對の虛妄を談じ得るものではないといふことが、もしこの「うつぼ舟」  から證明することになるやうなら、これもまた愉快なる一箇の發見と言はねばならぬ。                         「うつぼ舟の話」より  柳田國男

2012年11月28日水曜日

蟲雙紙 011 「恋し奏するこそ…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十一〉       風花銀次

恋し奏するこそをかしけれ。翅ふるはせて御前のかたにちかひたてたるを。愛し舞踏しさわぐよ。

2012年11月26日月曜日

小説「曼荼羅風」2 -火事むすこ- / 齋藤幹夫

2012年11月23日金曜日

俳句三十句「從容優樂」/ 風花銀次

從容優樂         風花銀次

日のもとの龜鳴く國に生まれけり
夢の世へをのこ女體より出で來し
初音ふとやみたるときが美聲かな
梅が香やそれよりも子の眉ほのか
産土うぶすなにほの〳〵白しこぼれ梅
春風や産立飯うぶたてめしに焦げすこし
念者とも父ともおもへ梅の空
春宵の嬰兒正調にて泣けり
花をいひ風をいひけり宮參り
ゆふされば夕櫻なるにぎみたま
花の木のくはしき管や水の音
優しにつぽんだんじなる假名初幟
腰のもののびてちゞんで五月かな
をのこ汝れ命をしめ葛ざくら

2012年11月21日水曜日

蟲雙紙 010 「正月一日、三月三日は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十〉        風花銀次

正月一日、三月三日は、よろづまゆこもりたる。
五月五日、豆 娘いととんぼむつびくらしたる。
七月七日は、機織蟲はたおりむし鳴きて、芋の露にうつりたる空いと高く、雲ひとつ見えたる。
九月九日は、あかつきがたより雨少し降りて、お菊蟲も濡れそぼち、黃金わうごん色にかがよひ、大明神などともてはやされて、アリストロキア酸を蓄へたれど、やがてなよやかな蝶いでて、ややもすれば、こはれむばかりに見えたるもをかし。

2012年11月19日月曜日

短歌十首「吉丁繪」/ 齋藤幹夫

吉丁繪           齋藤幹夫

ふとしかす京の準絶滅危惧は東土龍も東男も
吾妹子よ外へな出でそそこここに五月蠅なす神おはしたまふに
老いてなほ火遊び むかし祖母おほはは蘆薈アロエを塗られたりし思ひ出
金龍山淺草寺鬼燈市に 百二十六年後にもた
楡に吉丁蟲たまむし繪柄のアロハシャツの彼奴きやつ髭風吹いて罷り越したり
赫耀と照れる水面みなものうらがはに男寡婦の鮎竝あいなめ默し

2012年11月14日水曜日

蟲雙紙 009 「童子にさぶらふ蟲は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈九〉        風花銀次

童子にさぶらふ蟲は、兜蟲のつがひにて、かぶぶん、ぶぶぶんと名づけ、いみじうをかしければ、かしづかせたるが、あるとき防蟲シートをやぶり逃げたるを、童子「いづこに行きたるか、出でよ」とよぶに、出でず。日のさし入らざるにうち眠りてゐむか、さらば褒美取らせむとて「かぶぶん、いづら。ぶぶぶん、いづら。昆蟲ゼリー食へ」といへど、かさりともいはで、ゆくへ杳としてしれず。
「あはれ、いみじうゆるぎ步きつるものを。およびにつきし蜜をぶぶぶんになめさせ、かぶぶんの大いなる角にひもかけて貨車を牽か

2012年11月12日月曜日

ひとり兎園會 1-1 「虛舟」/ 齋藤幹夫

 ひとり兎園會 ―其之壹 虛舟―                     齋藤幹夫

享和三年癸亥の春二月廿二日の午の時ばかりに、當時寄合席小笠原越中守知行所常陸國はらやどりといふ濱にて、沖のかたに舟の如きもの遙に見えしかば、浦人等小船あまた漕ぎ出だしつゝ、遂に濱邊に引きつけてよく見るに、その舟のかたち、譬へばのごとくにしてまろく長さ三間あまり、上は硝子障子にして、チヤンをもて塗りつめ、底は鐵の板がねを段々筋のごとくに張りたり。海嚴にあたるとも打ち碎かれざる爲なるべし。上より内の透き徹りて隱れなきを、みな立ちよりて見てけるに、そのかたち異樣なるひとりの婦人ぞゐたりける。                   「虛舟の蠻女」より  曲亭馬琴

2012年11月7日水曜日

蟲雙紙 008 「我らが家に…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈八〉        風花銀次

我らが家に、わらはべ出でさせ給ふに、陣はをれど、ものものしげにむかへ据ゑ、働き蟻ども、はらからとへだてなく世話すべきものとおもひあなづりたるに、忍びていとけなき者どもをとりてくらひ、さはりてえ出でねば門に近う蛹化し、羽化したるを咎むれど、聞きもあへずあわて飛び立ちけり。いとにくく、腹立たしけれど、いかがはせん。愛らしう見ゆるもねたし。

2012年10月31日水曜日

蟲雙紙 007 「思はん子を…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈七〉        風花銀次

思はん子を蟲屋になしたらんこそは、いと心苦しけれ。道をはづれたるよと思はるるこそ、いといとほしけれ。採卵し孵化したるさき蟲を、草を刈り木の葉をつみて食はしめ、兩用の便宜を圖り、かひがひしく世話して、ぷりぷりに太りたるがやうやう蛹になりて羽化したるを翅のいたまぬうちにあやめ展翅したれば、なさけなからずいふ。まいて、甲蟲屋などはいと苦しげなめり。展脚すれば「針山地獄に落ちたるごとし」などもどかる。いとところせく、いかにおぼゆらむ。
これは昔のことならず。今もかくのごとし。

2012年10月27日土曜日

俳句三十句「金谷酒數」/ 風花銀次

金谷酒數          風花銀次

この神酒はわが神酒ならめけふの月
泣き上戸泣きだすまでが月見哉
さかつきが妻よりいづる雨月かな
つゆほどのむかしかたぎや菊の酒
物理とはもののことはりぬくめ酒
彼岸卽此岸殘んの酒いづこ
おしいたゞく駄句をすなはち賢酒とぞ
藝術の術のほかなる琴酒かな
しぐるゝやまたくりかへすまはしのみ
燗性のちがひを云ひて別れけり
去年の酒今年の酒とつらぬけり
屠蘇さつさつと急所をついてながれけり
わらひ下戸てふもありけり四方の春
むかしびて奇特あり南無般若湯

2012年10月26日金曜日

小説「身代わり狂騒曲」 01 ‐ 佐助の憂鬱 / 風花千里

2012年10月24日水曜日

蟲雙紙 006 「おなじ蟲なれども…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈六〉        風花銀次

おなじ蟲なれども、きき耳ことなるもの。つくつく法師。鈴蟲。松蟲。蟋蟀こほろぎ螽斯きりぎりす。おほよそ蟲の音は聞くひとにより聞きなすものなり。

2012年10月23日火曜日

小説「曼荼羅風」1 -天災- / 齋藤幹夫

2012年10月20日土曜日

俳句十句「栄花は夢」/ 風花千里

  栄花は夢           風花千里
恋川春町こいかわはるまち〉江戸中期の戯作者、浮世絵師。酒 上 不埒さかのうえのふらちという狂名を持つ狂歌師でもあった。駿河小島藩家臣。『金々先生栄花夢きんきんせんせいえいがのゆめ』で草双紙界に新風を吹き込む。寛政の改革を題材とした黄表紙『鸚鵡返文武二道おうむがえしぶんぶのふたみち』で老中松平定信の怒りを買い、進退に窮した春町は自害して果てたとも伝えられる。
  桔梗きちかうや野暮に仕立てし細面   螻蛄鳴けり俺は無芸とうそぶきて   酒の上の不埒、放埒 栗拾う   月夜かな詠める阿呆に読むあほう   天明の浮かれ騒ぎよ寒波来る   冴えかへる手におしろひを塗る仕草   きぬさらぎ酔眼の底怒りけり   曲水の酒は澄み腑は冥みたる   黄表紙と果てし春町針供養   夏枯や ほんに覚悟の白小袖
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2012年10月17日水曜日

蟲雙紙 005 「五月、祭のころ…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈五〉        風花銀次

五月、祭のころいとをかし。竝揚羽、黃揚羽の翅の模樣のけぢめばかりならず、黃みの薄き濃きもありてをかし。木々の木の葉、まだいとしげうはあらで若やかに靑みわたりたるに、おとづれたる蝶のあの葉この葉とたたきてゆくは、太鼓の稽古のごとくありて、かそけき音のたどたどしきを聞きつけたらむはなに心地かせむ。
祭ちかくなりて、黑揚羽、烏揚羽などのをどり舞ひつつ、山椒に觸れ、枳殼からたちなどをかすめて、いきちがひとびありくこそをかしけれ。疾く遲く、つねながらをかしう見ゆ。尾狀突起のすりきれて、打ち枯らしたるも

2012年10月11日木曜日

小説「仁丹塔」/ 齋藤幹夫

2012年10月10日水曜日

蟲雙紙 004 「三月三日…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈四〉        風花銀次

三月三日、うらうらとのどかに照りて、いま咲きはじめたる桃の花に蜜蜂など、いとをかしきこそさらなれ。根方の土のなかにまゆごもりたる天蛾すずめが、翅の廣ごりたるおのがすがたをゆめにみて身じろくこそをかしけれ。
さくらの花おもしろう咲きたるといへど葉のなかりけるはわろし。やまざくらなど葉がくれにすこしく咲きたるこそ、いみじうをかしけれ。「あ、あれにひときはおほいなる花が」と家人のおどろきゆびさすかたを見れば、翅をやすむる羽化したばかりなる大水靑蛾おほみづあを、いとをかし。

2012年10月7日日曜日

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2012年10月4日木曜日

短歌十首「年增女誑」/ 齋藤幹夫

年增女誑        齋藤幹夫

戀敵かたきなど眼中に無き惡友の近視老眼亂視色弱
羨望のまなざしてふも皮肉めき食用の馬賣るはつなつの市
祝花いはひの日の出蘭の鉢植ゑ轉がつて酒舖「ガルシア」の亂癡氣騷ぎ
なるか長髓彦の 賑賑しわかものの膝覗きしデニム
御亂心遊ばされるなアニメ『家なき子』に淚流せし父よ
庭の大盞木切り倒す三界の一界の家引き拂ふべく

2012年10月3日水曜日

蟲雙紙 003 「正月一日は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈三〉        風花銀次

正月一日は、まいて空のけしきもうらうらと、めずらしうさき蝶など舞ひいでたるに、現世利益をもとめて列をなすひとびとには見えず、わらはべのいくたりか指さし、ゑまひてのち手を合はせたる、さまことにをかし。
七日、ななくさのほかの立ち枯れの草になにかの蛹、若菜つむをわすれ、いかなる蟲かと思ひめぐらすこそをかしけれ。持ち歸りて、いかなる蟲か賭けむといへば、家人さんざめき、穢し、捨てたまへ、などくちぐちにののしりて近う寄らざりけり。かつて「本地ほんぢたづぬるこそ心ばへをかしけれ。

2012年9月28日金曜日

小説「身代わり狂騒曲」 00 ‐ 源内死す / 風花千里

2012年9月26日水曜日

蟲雙紙 002 「昆蟲は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈二〉        風花銀次

昆蟲は、鱗翅目鞘翅目直翅目膜翅目半翅目など翅のありさまにてわくるがつねなるに蜻蛉せいれい目てふすずやかなる名ありてをかし。

2012年9月22日土曜日

俳句三十句「俳諧無宿」/ 風花銀次

俳諧無宿         風花銀次

旅に倦んで足洗ひけり猫じやらし
冬ふかしさへづりが煮えてもひとり
降る雪や晩節が長すぎるなり
去年今年に去り嫌ひなし
旨ししらうを魂魄の紺透けて
錐揉みに夢見月とはなりにけり
次の間の雛が茶を挽く修羅場かな
嵌め殺す障子のむかうがはに春
餘所妻のゐなじむ家や目借時
櫻烏賊おのれがわたにまみれけり
散るときの所作敎へあふ櫻かな
賽の目に春の行方を尋ねけり
菖蒲湯に皮膚そのほかを洗ひけり
醉生の渡世てふ卯の花くたし

2012年9月19日水曜日

蟲雙紙 001 「春は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈一〉        風花銀次

春は菜の花。こがね色のなみうつひまの葉がくれに、紅 娘 てんたうむしの、うしろよりひよどりごえのしかたでしかけたる。
夏ははす。花はまだなれど、しのぶる鯉の浮き葉をゆりうごかすもをかし。となめせし豆娘いととんぼとまりて、かげもハート型なるはさらなり。
秋はいろいろの草こきまぜたるなかに鳴く蟲うたひつのりて相聞のごとしとおもほえど返歌なし。
冬は小楢。うらがれのこずゑに參星みつぼしかかりて、風花するとみれば、妻を求めて飛びまどふ冬尺蛾ふゆしやく。妻に翅なしとぞ、あはれ。

2012年9月15日土曜日

短歌三十首「戲遊軍嬉遊曲」/ 齋藤幹夫

戲遊軍嬉遊曲       齋藤幹夫

梅擬一枝手折りてすゑの世にいでたる花の景季もどき
料理敎室混じる二、三のますらをに薔薇ばらばらにばらされあはれ
梅雨の世につゆほどおもふことなけれども雨男佐佐木信綱
屁理屈のなまぐさき惡友をくろ握り潰せし拳
愛でもくらひやがれ!文月ふづきの水槽に幾色か缺く 虹 霓 魚レインボウ・フィッシュ
愛人のはだへにふれず牀の閒にかざりしでむとしよう
われ迷ひ込みたるゆゑに新宿區百人町に吹くむかひかぜ

2012年9月8日土曜日

俳句十句「野暮錄」/ 綠月亭

野暮錄         綠月亭

閻魔參若いの背にうちむかふ
すててこの臑毛逆撫ず女人かな
夏芝居跳ねて砂利共惡だくみ
ゼラニウム居候より賜るも
晩夏おそなつや濡るるはだへの馬わかし
噓にうそ混ぜてし灸 花やいとばな
蟬踏んで大音聲だいおんじやうの蟲の息
寢屋の鍵束野暮なり聖母昇天祭
銀漢を跳越えて來し御俠振おきやんぶり
織姫や勝鬨のごと高鼾
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2012年9月5日水曜日

Baloney! - 「花零れり」/ 風花銀次

 花零れり◎風花銀次

 ご存じの方はご存じのとおり(あたりきの話で、ご存じでない方はご存じない)あたしはへたの横好きで虫や花やを写真に撮ったりなどして遊んでますが、生まれついての酒飲みゆえ運転免許なんて結構なものを持っていず、いくら虫がたくさんいそうでも、うっかり郊外の山奥なんて行ったら帰ってこらんなくっちゃうおそれ大いにこれありだから、公共交通機関だけで移動できる都区内での撮影がもっぱら。
 したがって虫といっても写ってるだけでみんなの気を引くような珍虫奇虫のたぐいはまったくなく、そんじょそこらにいくらでもいるありふれた虫のあれこればかり。

2012年9月1日土曜日

俳句十句「去年今年」/ 風花千里

去年今年          風花千里

まどろみの枕辺に立つ楓かな
草紅葉 爪に獣の棲むけはひ
しまうまの縞から殺気立ち上る
草原くさはらの乳房の陰で仔馬肥ゆ
子を殴るけんの痺れやまつぼくり
溜めの食 玩フィギュアの山に月笑ふ
ひだまりに御縁をつむぐ鎖編み
凩に「こーとろことろ」の唄を聴く
霜柱 産毛の少し濃くなりぬ
すべりだい跨ぎ越す子や去年今年
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2012年8月29日水曜日

短歌十首「秘扇帖」/ 風花銀次

秘扇帖            風花銀次

心弱くなりゆく夕べいん結ばむとして指がひきつる
五欲、そのひとつを缺きし少年とすれちがふ花の奧の奧
愛想盡かしの水無月 われが拒みたるかいなかなしき曲線カ―ヴをゑがき
靈肉をたやすくわかち論ふたかが書齋の山羊が、莫迦め
鬼子母寺に石榴一顆み割れてうちつけに性力崇拜シャクティズムむずむず
ひねもす呑んだくれてゐにけりしらつゆの奧義オカルトへはなほ至りがたしも

2012年8月19日日曜日

短歌二十首「穀潰手控帳」/ 齋藤幹夫

穀潰手控帳          齋藤幹夫

良經の扇にすまふ秋風に見事帽子シャッポをぬがしめられて
弟に戀の樂しみ教えなむ この兄が戀敵とならう
戰火勃ちあがるべくしてたちあがりすさまじ曼珠沙華の一群
夜に爪切つて逢へざるものに胸ふくらませおり 蒼き若月みかづき
ひねもすや梨のつぶつぶ數へをるこの暇潰し われ穀潰し
あしひきの病ひありけり眞夜中を路面清掃車がはひまわり

2012年8月12日日曜日

俳句十句「Gekko 歌劇団」/ 風花千里

Gekko歌劇団      風花千里

傀儡のまなこの奥や蝶々雲
初霜の白のあはひに胸騒ぐ
駒下駄の雪こそげ取る別れ際
埋み火や歳月の月拾ひたる
はりまどと紙一重なり伊達気質
しはぶきにケチの頭の使ひやう
盃はもうケレン味を溢れさせ
目薬をして上らう曲輪くるわ坂
片頬で笑ひ守宮が月狙ふ
たあぷぽぽ やもりが盗んだ月はどこ?
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2012年8月5日日曜日

Baloney! - 「イワセミ」/ 風花銀次

 イワセミ◎風花銀次

 土の中で数年の幼虫時代を過ごしたのち、羽化して、岩の隙間、割れ目の中で終生を過ごすという奇妙な生活史を持つ地味な半翅目の昆虫、セミの一種が発見されたとき、色めき立ったのは生物学者やアマチュア昆虫愛好家ばかりではなかった。
 退化して小さくなった貧相な翅が、ある種のフェチを喚起するから、という説もあるにはあるが、それでは、まるで畑違いの芭蕉研究家たちが慌てふためいた理由は説明できないだろう。なぜ芭蕉研究家たちは慌てふためいたのか。

2012年8月4日土曜日

俳句三十句「烏兎匆匆」/ 風花銀次

烏兎匆匆          風花銀次

國ぶりの態位をたゞす神樂かな
去年今年流るればこそ志染川
そのさきに鳳穴あらむ揚げ雲雀
貌鳥のおのれがほなる尖りかな
蟲穴を出でざるもあり地鎭祭とこしづめ
荒壁やそこかしこなる地 祇くにつかみ
音立てて水飮む蝶や無人驛
かげろふにわれはが立つをとこかな
淺蜊ごときが舌を出しけり日向灘
天人の捨て盃か花に月
戀猫に猫ならざるはなかりけり
つちふるをうつゝの夢に告げられき
きぬ〴〵の春鹿に眉なかりけり
一蝶去つて高千穗峽のふかみどり

2012年8月3日金曜日

短歌二十首「生ける空蟬」/ 齋藤幹夫

生ける空蟬          齋藤幹夫

鬼鹿毛の馬頭觀音大祭の世話役小栗君神妙に
後朝きぬぎぬにひとり啜りし蜆汁 明日より昨日へ架かる橋はあらぬか
佐保姫のする寢屋の枕頭のボックスティッシュ 花粉症にて
裁判員席より臨むかぎろひの欠伸あくびすらも殺せず
官能の最果て知らず 綠靑の榮螺のわたがとろり取れたり
熊谷市武體に澱むぬまつぷち縮緬肌の菖蒲立ちゐし