蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章 風花千里
第四章 疑惑 綾錦の部屋に戻ると、菊乃は携えてきた竹村伊勢の菓子箱を開けた。 わあっ、と小さな歓声。部屋にいた連中の顔が綻んだ。女郎に限らず、女はいつだって、甘い物に目がない。 「あら、今日は最中饅頭なのね」 初糸が目を輝かせて、箱の中を見ている。 《最中の月》で有名な竹村伊勢だが、近年、二枚の煎餅の間に餡を挟んだ、最中饅頭なる菓子を売り出した。 といっても、最中饅頭は竹村伊勢の発案ではない。日本橋の菓子屋で出したのが始まりだが、そこは抜け目のない吉原の菓子屋のこと、良質な材料を使って本家より格段に旨い菓子を作り
2018年5月26日土曜日
2018年5月23日水曜日
2018年5月20日日曜日
短歌十五首「すずしろ」/ 風花千里
すずしろ 風花千里 哺乳瓶おもちやにしてゐる子を眺めつつくろぐろと太き眉ひく 祭太鼓に驚いて泣くきみとみいみいぜみがつむぐ輪唱 みづおちに酸ゆきが渦巻きゐたる日は昼月しろき羅 まとふ 亡き母の帯締めてみる夕刊に児童虐待の記事踊る日 生えかけの乳歯一本愛でながらうすき蓮根酢水にさらす けふの気分はまだらなブルーそれならば夕餉の皿にトマトを少し おもちや箱に月の光が寄り添ひし日より輪投げの輪が見当たらぬ
2018年5月17日木曜日
2018年5月12日土曜日
小説「蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章」03 / 風花千里
蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章 風花千里
第三章 花魁の死 「うわぁー!」 どこかで、獣の咆哮のごとき、狂おしげなわめき声がした。 はっ。 髪を摑んで引きずり出されるように、菊乃は深い眠りから覚めた。 今、何時なのか。あたりは、まだ真っ暗だ。 「菊乃ぉ」 隣で寝ていた歌乃が、心細げな声を出す。歌乃はすでに布団の上に起き直っていた。 「なんだろ、今の? 喜助の声みたいだったけど」 喜助は行灯に油を差すために、深夜、各部屋を回っていた。
2018年5月6日日曜日
都々逸十首 / 風花銀次
都々逸十首 風花銀次 〽どうせ僕らは帰れやしない夜汽車は永 久 に夜の中 〽凛々しい顔ののつぺらぼうに一目惚れしてなぜ悪い 〽能はなくとも爪かくしますあたしや恋する猫娘 〽さいたは菊かふたりの仲か死んだ男が逢ひにくる 〽腹は割いたが介錯まだかはやく頼むと武者の霊 〽地縛霊などさつさとやめて憑いてゆきたいどこまでも 〽風がそよとも吹かない夜の髑髏が耳鳴りに悩む
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