しばしお待ちを...

2017年12月31日日曜日

小説「五月は薄闇の内に─耕書堂奇談」(4)/ 風花千里

2017年12月21日木曜日

短歌十首「風を結んで」/ 風花千里

風を結んで        風花千里

眠りが人を透いてゆくころ冷やされし醗酵乳が分離はじめぬ
反りかへりあゆむ妊婦の脊椎の***にしばし木枯し憩ふ
父といふ危きものよ つやめきし卵黄に血のまじりてゐたる
児が握る磁石に砂鉄群がりて 精子銀行の精子のゆくへ
午後五時の公園 母の帰り待つ少女のつゆけき睫毛が深し
残飯に群がりつつく鳩たちの羽に夕陽がゆるびつつある
朝光を吸つてふくらむ主のなき金魚鉢なり 未来を映す

2017年12月11日月曜日

短編小説「マンホール」/ 風花千里

マンホール            風花千里

 人生には一度や二度大きな決断をしなければならない時がある。だが心を決めたからといって、それが未来の幸福に続いているとは限らない。
 もののはずみで俺は人を殺した。夜の繁華街、通報を受けすぐに警察がきた。
 捕まりたくなかった。仕事も色恋も順風満帆の三十年、出会い頭に衝突したようなアクシデントで、この先何年も棒に振るのは絶対に嫌だった。
 俺は逃げた。しかし警察は執拗に追ってくる。もうだめだと観念したとき、足下に月光に照らされたマンホールが浮かび上がった。8の字を横にしたようなマークがついている。蓋に手をかけると案外簡単にずらすことができた。
 目をつぶって飛び込んだ。滞空時間は思いの外長く、落ちながら蓋を閉め忘れたことを思い出した。

2017年12月7日木曜日

童話「ピエロ」/ 志野 樹

ピエロ           志野 樹

 むかし、ある街にサーカスがきました。
 ゾウやトラ、犬やアヒルなどたくさんの動物とともに、猛獣つかいの男や空中ブランコのお姉さんたちもやってきました。
 その中にひとり、浮かない顔をしている者がありました。
 ピエロです。ピエロは顔を白く塗り、真っ赤な丸い鼻をつけ、両目の下に一つずつ涙のしずくを描いています。踊ったりおどけたりして、トラの輪くぐりや玉乗りの合間にお客さんを笑わせることを仕事としていました。
 ピエロは今朝、サーカスの団長からこ

2017年12月1日金曜日

短歌五首「瑕瑾」/ 風花銀次

瑕瑾            風花銀次

二十一世紀中葉落下傘候補がゆよーんゆやゆよーん
老若の耳が順ふそよかぜのなかにかすかな異臭ありけり
刎頸の朋が頸刎ねさせてくれない トモダチをやめちまはうか
皇帝ダリアの饂飩粉病はさておいて「この道しかない」のだから、いくさ
玉に暇ありと空目をしたりける美丈夫の小野君は元気か?

2017年11月21日火曜日

小説「五月は薄闇の内に─耕書堂奇談」(3)/ 風花千里

2017年11月15日水曜日

短歌十首「影を踏む」/ 風花銀次

影を踏む        風花銀次

月照れば亡き人の影踏むばかりなる心地する夜ふけなりけり
月の裏側を是非見にきたまへと朋より轉居通知が屆く
機影どかと踏むべくありぬ 向日葵の迷路をたれにも遇はず出でけり
リア充も非リア充も死に絶えて空は澄み鳥の歌はラブラブ
送り火は焚かない どうせ歸らないんだらうし、ずつとゐるんだらうし
紫式部ならざる小紫一枝載せて半月盆の漆黑
ねがはくは十月櫻の花のもと黃昏の國にこそ死なめ

2017年11月11日土曜日

小説「五月は薄闇の内に─耕書堂奇談」(2)/ 風花千里

2017年11月7日火曜日

童話「ヘビのニョロリ」/ 志野 樹

ヘビのニョロリ       志野 樹

 ヘビのニョロリは、なかまのヘビとは少しちがっていました。
 話をするときは、ゆーっくりとしゃべりますし、前にすすむときは、名前のとおり、ニョロリ ニョロリ ニョロニョロ~リと、ゆるやかにうごきます。

 雨上がりのある日、ニョロリは、しめった林の中をさんぽしていました。
 すると、一ぴきのムカデと出くわしました。大きくはありませんが、よく太ったムカデでした。
「わあ、おいしそうだなあ」
 ニョロリは、口をあけて、ムカデを食

2017年11月1日水曜日

小説「五月は薄闇の内に─耕書堂奇談」(1)/ 風花千里


『五月は薄闇の内に――耕書堂奇談』風花千里
《オンデマンド版とKindle版で発売中》

第9回『幽』文学賞長編部門佳作受賞作を改稿。
地本問屋「耕書堂」主人の蔦屋重三郎が見舞われる怪異の謎を戯作者山東京伝が解き明かす、と思いきや……。当サイトで公開済みの第一話「歌麿の肉筆画」、第二話「冩樂の大首絵」のほかに未公開の第三話「銀の魚(うお)」を収録。



  

2017年10月21日土曜日

短歌十首「嬰ヘ長調」/ 風花千里

嬰ヘ長調         風花千里

わたくしといふ回廊の行きどまりにものの芽ひとつ息づく気配
月のもの兆しのなきを案じつつ校正ゲラに赤字を入れる
ゆく夏に背を押されながら恋人へ肉屋の前で妊娠告げる
母子手帳交付とともにひとひらの母性をいだく ここよりは秋
胎児はやヘ音記号のなりかたち弾ませながら心拍きざむ
天井の柾目揃ふをあふぎつつ流れ流れて行くのもいいか
高気圧はり出すゆふべ浴槽のさざ波たてる腹部のあたり

2017年10月16日月曜日

短歌五首「七代先まで」/ 風花銀次

七代先まで        風花銀次

「猩々蠅」を「少女奪え」と誤變換したり蒲鉾板のごときが
猩猩蠅の代替はりすこやかならず されどすみやかなる箱の中
ラッキーセブンの七代目にて一身に祟りをお引き受けいたします
隔世の隔たりすぎて末の世のあなたを祟つたものか、どうか
二重螺旋、それよりもその黑髮をほどいたり編んだりほどいたり

2017年10月11日水曜日

短編小説「デトックス」/ 風花千里

デトックス            風花千里

 酒を飲むと蕁麻疹が出る。
 女房に話すと、エステに行くことを勧められた。
「体内の毒素を排出させる健康法があるの。長年の飲酒で毒素が溜まっているのよ」
 数日後、エステとやらを訪ねた。清潔でゴージャスな空間を想像していたが、該当する住所には壁面に染みがついた雑居ビルがあるばかり。三階に上がると、確かに「毒出しいたします」という看板が出ている。
 中に入る。受付のおばさんがカルテを作り、甚平のような施術着を渡してくれた。裸の上にそれを着た俺は、あれよあれよという間にカーテンの向こうに誘われる。
「私に背を向けて横になって」
 若いエステティシャンではなく、真っ白い口髭をたくわえた爺さんがいろいろな管の伸びたベッドを指した。横になると、爺さんは俺の背後でなにやら機械をいじっている。

2017年10月7日土曜日

童話「だんご屋ハチベエ」/ 志野 樹

だんご屋ハチベエ      志野 樹

「へい、いらっしゃい」
 木もれび山にある峠のだんご屋から、この店の主人、ミツバチ・ハチベエの威勢のいい声が聞こえてきます。
 だんご屋は連日、動物たちで大にぎわい。山のあちこちからお客がやってきます。
「おだんご三本くださいな」
「はい、ハチミツ入りだんごです。おいしいですよ」
「こっちには十本くれるかな。子どもたちがおなかをすかせて待ってるんだ」
「へえ、承知しました。たくさん買っていただいたので、一本おまけです」

2017年10月1日日曜日

壹行怪談「壹百行」/ 風花銀次

壹行怪談「壹百行」        風花銀次

「近況報告」といふ件名で、死んだ友人と同じアドレスから奇妙な話が一行だけ綴られたメールが毎日屆く。
  ◯
きのふ味噌汁でつらを洗つて出直してきた奴とあした初めて會ふ。
  ◯
さる舊家に傳はつた古今雛で、少々曰くがあると申しましても大抵の方は眠つてゐらつしやる時間ですから大して問題はないのですが、夜中になると眞ん中の官女が目を見開き鉄漿おはぐろをした口で「眠い」と呟くのださうでございます。
  ◯
ネットオークションで落札したジャンク扱ひの望遠レンズの中玉にある曇りが人間の形をしてゐて、見るたびにポーズを變へる。

2017年9月21日木曜日

短歌五首「秋楽章」/ 風花千里

秋楽章          風花千里

秤とミモザさりげなくかつ去り難く撫であげてゆく風のやさしき
金鈴のころがるごとしビブラート奏でるときにまろぶ喉骨
気圧高まる真昼間きみの口腔の深き泉に渇きをいやす
殉教図壁に懸けて眺めるなら対の絵としてこの身かけおく
目覚めれば傍らの人の肉桂の匂ひともなひ閉じてゆく秋
つややかな蜘蛛の褥にちきたる朝の滴の千の目咎む

2017年9月15日金曜日

短歌十首「菊ちやん」/ 風花銀次

菊ちやん         風花銀次

菊之助と名づけ愛しし陸龜を遺して妻ははや逝きしかも
名を呼べば驅け寄る龜のつぶらなる黑き瞳に妻がしのはゆ
菊ちやんと日にいくたびも聲をかけ龜が鳴くてふ春ぞかなしき
小松菜一把たうべてもなほ足らぬげにわが顏を見る龜に聲なし
菊ちやんのために草摘み妻のため花摘む野邊に降りけり
部屋ぬちに放てば我のあとに付き從ふ龜の菊之助し
晝下がり龜が水飮む音にさへ驚く靜かなる部屋なりき

2017年9月11日月曜日

短編小説「かっちん虫、跳んだ。」/ 風花千里

かっちん虫、跳んだ。       風花千里

 仕事で大きなミスをした。取引先の業務に支障をきたしたので、先方の事務所へ謝罪に行き、会社に戻るところだ。上司である田中さんも同行してくれていた。
 田中さんと並んでオフィス街を歩く。歩道に点在するベンチには、外回りの男たちが湿気を含んだ風に顔をしかめながら休んでいる。先方が了承してくれたとはいえ、自分の不注意でミスをしたショックは大きかった。足取りは重く、履き慣れないパンプスの踵が地面に触れるたび、リズムを乱した打楽器のように情けない音をたてた。
 田中さんは、暑さの残る時期だというのに濃紺のスーツを着て一分の隙もない。口数が少なくてきぱきと仕事をこなすので会社では頼りにされているけれど、アンドロイドみたいに冷徹な印象があってわたしは彼が苦手だ。
 話すこともないので下を向いていたら、田中

2017年9月7日木曜日

童話「ダッキィおばさんと七羽の子ども」/ 志野 樹

ダッキィおばさんと七羽の子ども
              志野 樹

 たんぽぽ村のみどりが池。ここでは、けたたましいかけ声で、朝がはじまります。
「ガア、ガア、ガア。まったくなんておねぼうなんでしょうね、この子たちは。とっととおきなさい、ガア」
 アヒルのダッキィおばさんが、子どもたちをおこしているのです。
 ダッキィおばさんの子どもは、ぜんぶで七羽。女の子が四羽と男の子が三羽です。
「えー、もっとねたいよう」
「まだ、お日さまが出てないよ」

2017年8月26日土曜日

短歌五首「散り過ぎゆかば」/ 風花銀次

散り過ぎゆかば      風花銀次

悄然とかうべを垂れて向日葵が竝びいづこへか續く國道
刎頚の朋のくび刎ねそこなつてその日から口を利いてくれぬ
菊に葉蜱はだにたかりあるいは我が死後にまた新たなる敗戰記念日
「十八面骰子チャイニ|ズダイス一個」と遺產目錄の末尾の秋の夕暮れ
わびなきの亡き人よりの觀月の誘ひの書狀ののの字しきやし
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2017年8月21日月曜日

小説「紅に狂う」/ 風花千里

2017年8月7日月曜日

童話「トンキーとピョンシー」/ 志野 樹

トンキーとピョンシー    志野 樹

 トンキーは、ブタの男の子です。
 大きなことにかけては、村いちばんのブタ、トントンさんのむすこで、すみれ小学校にかよっていました。
 ピョンシーは、ウサギの女の子です。いろの白さでは、村いちばんのウサギ、ピョンタさんのむすめで、やっぱりすみれ小学校にかよっていました。
 トンキーとピョンシーは、とてもなかよしです。
 学校に行くときは、ピョンシーがトンキーのいえにむかえにいきます。
 トンキーは、朝ねぼうなので、いつまでもベッドでぐずぐずしているのです。

2017年8月1日火曜日

短歌五首「瓊音」/ 風花銀次

瓊音           風花銀次

玉子すなはち玉體となるさだめの子などといひけり籠に盛りつつ
咲かぬ櫻をゆすりつつふと氣に入らぬもののひとつに無賴派の「派」
夏も近づく八十八夜を百夜過ぎすぐにかつての敗戰記念日
むらぎもの心を洗へ しかるべくやさしきゲリラ豪雨待たるる
でも玉がふれあふやうなきよらかな音なんてしなかつたよ、ママン
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2017年7月21日金曜日

短歌五首「とけてゆく」/ 風花千里

とけてゆく        風花千里

ダ・ヴィンチの素描の線のかすかなるゆらぎにけふははされをり
絵葉書のみたる美童の横顔に霧らふヴェネツィアングラスの
叶ふなら解釈無用の快楽を 男雛をかくしおくおとうとよ
金雀児のえにしを思へ 黙深くもたれあふ少年たちよ、おやすみ
そとは昧爽よあけでかがよへるくうきのなかにあなたがたがとけてゆくのをみつめてゐました

2017年7月8日土曜日

童話「カゲマル」/ 志野 樹

カゲマル          志野 樹

 たんぽぽ村は、つゆのきせつをむかえました。
 しととと、しとと。
 来る日も来る日も、終わることがないかのように、はい色の空から雨つぶがおちてきます。
 お日さまの光がとどかないたんぽぽ村は、山も川も、野原も道も、みんなくすんで見えました。
 そんな中で、あじさいの花だけが、ふりつづく雨をうけて、青くうつくしく、さいていました。
「はあー、きれいだなあ」
 トカゲのカゲマルが、あじさいの花を

2017年7月5日水曜日

短歌十五首「秋霧の」/ 風花銀次

秋霧の           風花銀次

星はれつつありきくちびるかさねあふ二人にかかはりはあらねど
照る月の赤狩り 二十一世紀初頭電腦空間にて
いつからかファインダーの中に棲みついた女が顏を見せてくれない
夢は枯野で迷子になつた ブルーズに取り憑かれつちまつたんだッてよ
步み寄る鶴に多生の緣を說き來し方に惛惛と雪降る
玉ニ瑕アリテ其處ヨリ碎ケ散ル故ニ玉碎ト謂フナリ(嘘)
第四の軍に突擊するごとくさかのぼる花筏ありけり

2017年6月21日水曜日

小説「座敷鷹」/ 風花千里

2017年6月19日月曜日

短歌十五首「でいどりぃむ・びりぃばぁ」/ 風花銀次

でいどりぃむ・びりぃばぁ  風花銀次

半玉ハ未成熟ナル玉體ノ謂デアリ似而非通語ナリ(嘘)
蠅聲さばへなす左翼どころか うようよと雨後の筍のごとし、うるさし
朋友相信シ すなはちの必殺掌返しをくらへ!
廻廊に奧こそあらね 見え隱れしつつぬばたまの黑歷史
氣がつけば戰爭の後ろに立つてゐた 失ひしは顏色か、顏か
菊科植物息絶え絶えに枯葎より「朕惟ハザレド朕アリ」
「惟フ」と「思フ」の違ひにおもひいたさざること久し あはれ菊に首なし

2017年6月1日木曜日

短歌十五首「エクリプス館」/ 風花銀次

エクリプス館       風花銀次

「飛行機はひたぶるに地を戀へり」とぞはつなつ誤配の葉書が屆く
われのかたはらに見知らぬ戀人がまふ〈エクリプス館〉棧敷にて
火星マルス金星ウェヌスとせごとのきぬぎぬのかなしみかさぬ 永久とはにかさねよ
あまいあまいカフェ・ド・ボルジア飮みほして今夜は死んだやうに眠らう
不 忍 戀しのばざるこひとよ意氣のきはみにて淡淡あはあはとたまかぎる遊冶郞
彼女の部屋に三日ゐつづけいまさらに鈍色の痩身器おそろし
醒めつつ愛を語らふわれのまなかひにゆりかうゆられ百合鴎飛ぶ

2017年5月21日日曜日

小説「丁か半かの命なりけり」/ 風花千里

2017年5月1日月曜日

短歌十首「駄天使」/ 風花銀次

駄天使          風花銀次

果物籠をかかへてに童形の駄天使カラヴァッジオがたたずむ
夜ふけ貴腐葡萄一房かこみゐて病めるバッカスめける若きら
天上的愛に想ひをいたし「お稚兒さん ヴァルダッサ」てふ名の巨犬曳きゆく
沙汰のかぎり女占ひ師とわれがを視てしまつたことなど
戀にも革命にも醒めてきみが彈くリュートよりほとばしるかなしみ
洗禮者聖ヨハネ像にゑがかれて歸る女衒にふる春の雨
われをやさしく殺ししのちはゑまふほかなくてほほゑむ男娼ダヴィデ

2017年4月21日金曜日

小説「まがたま」/ 風花千里

2017年4月16日日曜日

連作短歌三十首「お月さま、おねがひ」/ 風花銀次

お月さま、おねがひ    風花銀次

滿員の電車にまんまるいお月さまが窓から乘り込んできた
 ☆……‥‥・・ ・
       ・ ・・‥‥……☆
「ドレッドヘアの彗星が大接近!」と見出しが躍るけふの夕刊
星形のにんじん溶けてしまふまで煮こんだシチューふたつください
火星からやつてきたんだ。ほんたうさ、蝙蝠をひとつがひつれてね
今は日雇ひ勞働だけどトラックに木星を積んだことだつてある
土星の環なら見たことがある、遺失物センターでね まあまあだつた

2017年4月15日土曜日

短歌七首「星状果実」/ 風花千里

星状果実         風花千里

神貶むるにあらねどあらまほしルーズな髪をさらに靡かせ
眠り足らざる目にくるふのはきしみゆく軌条はたまたブランチ・デュボア
あかとき。愛をうべなふ褪紅あらぞめの唇からはただ風のみぞたつ
一〇〇%純粋な愛などなかりしも齧りあふなら星状果実スタ-フル-ツ
地球儀が自転せし夜  抱き合つてフォルテのかたちに凭れてしまふ
干し草の匂ひの夕べ街にふと片頬でむ少年ひとり
スペイドの若衆ジャックをまさに副官みちづれごうせむとや生まれ来しかな

2017年4月2日日曜日

短歌十首「野を征かば」/ 風花銀次

野を征かば        風花銀次

うはの空にわれの愛語を聞き流しふいに鳥めく年上のひと
身をえうなきものにおもひつ 相照らす肝膽にほのくらき一隅
千早振る神去月はたそがれの國に咲くてふ櫻見にゆく
野を征かば立ち枯れの向日葵群れて南みんなみへ驅け出ださむばかり
鈴蘭臺驛發君影團地行バス停のかはたれ 見覺ゆ
夫婦相和し革命歌連彈のそののちのゆくへが杳として知れぬ
小葉立浪草こばのたつなみさうの波濤にさらはるるほどな小さきひとに生まれき

2017年4月1日土曜日

短歌五首「たまゆら」/ 風花千里

たまゆら         風花千里

輪転の光のかけら宿したるほたるぶくろの底のたまゆら
ゆらゆらと揺らめいてをり沈む陽がうつろな海の支点となるべく
使者として光を纏ひ舞ひ降りぬもだしてふかき闇の鷺草
うつくしくたしめたまへ真夜中の千羽のなかの黒き折鶴
錆びついた鉄条網を抜けてゆく風をとどめてあるフェルマータ
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