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2012年8月3日金曜日

短歌二十首「生ける空蟬」/ 齋藤幹夫

生ける空蟬          齋藤幹夫

鬼鹿毛の馬頭觀音大祭の世話役小栗君神妙に
後朝きぬぎぬにひとり啜りし蜆汁 明日より昨日へ架かる橋はあらぬか
佐保姫のする寢屋の枕頭のボックスティッシュ 花粉症にて
裁判員席より臨むかぎろひの欠伸あくびすらも殺せず
官能の最果て知らず 綠靑の榮螺のわたがとろり取れたり
熊谷市武體に澱むぬまつぷち縮緬肌の菖蒲立ちゐし
磊落の落ちつく果ては愛人の紫丁香花 ライラックてふ舌の動きに
鳳凰とレヴィアタンとが格闘す子らのゲームに手を拱いて
國寶迦陵頻伽の像を觀にゆかむ紺の鳥打帽とりうち阿彌陀にかぶり
四肢つづめ死を眞似ぬるあかときにささがねの蜘蛛膜下出血
花虎ノ尾青白く燃え立秋と言へど涼風至るどころか
われ生ける空蟬なりし 反復性經頭蓋磁氣刺激療法
いらくさを分け入るをのこのこのことかへりうちにもよつてください
人とかく見掛けによつて老翁おぢさんの稚魚の煮付に睨みつけられ
狐塚とふ苗字の女人住まひける紀州に飛脚便を奔らす
童貞聖マリア無原罪の御孕おんやどりの祝日いはひびに寝せうべん
寢正月返上し觀る『羽衣』の紫地鳳凰文金欄長絹
寒櫻花シネンシスへてなほさにづらふ葉々のうらがは ためらはず死ね
白魚の百の儚きたましひにしたつづみうつ われを恨むな
ブリューゲル『子供の遊戯』かたすみのはう尿ねう處女をとめあはれよのなか
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