身代わり狂騒曲 風花千里
第十二章 密談 一 柳橋の翠風楼 という料理茶屋で、重三郎は平角を待っていた。 「困った事態になったな」 溜息交じりに弱音を零す。 昨夜、平角から吉原の蔦屋に文が届いた。源内の件で話がある、と添えてあった。少し前に春信からも知らせがあり、気の病が高じて身代わりの言動がおかしくなった、と書かれていた。 気を取り直して、座敷の中を眺める。 昨年開店した翠風楼は、凝った料理を出すと評判の店だ。豆腐と鯉料理に定評があり、口の奢った平角が贔屓にしていた。 座敷はこぢんまりしていたが、床の間の掛け軸、金銀の蒔絵を施した飾り棚など、贅を尽く