しばしお待ちを...

2012年11月28日水曜日

蟲雙紙 011 「恋し奏するこそ…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十一〉       風花銀次

恋し奏するこそをかしけれ。翅ふるはせて御前のかたにちかひたてたるを。愛し舞踏しさわぐよ。

2012年11月26日月曜日

小説「曼荼羅風」2 -火事むすこ- / 齋藤幹夫

2012年11月23日金曜日

俳句三十句「從容優樂」/ 風花銀次

從容優樂         風花銀次

日のもとの龜鳴く國に生まれけり
夢の世へをのこ女體より出で來し
初音ふとやみたるときが美聲かな
梅が香やそれよりも子の眉ほのか
産土うぶすなにほの〳〵白しこぼれ梅
春風や産立飯うぶたてめしに焦げすこし
念者とも父ともおもへ梅の空
春宵の嬰兒正調にて泣けり
花をいひ風をいひけり宮參り
ゆふされば夕櫻なるにぎみたま
花の木のくはしき管や水の音
優しにつぽんだんじなる假名初幟
腰のもののびてちゞんで五月かな
をのこ汝れ命をしめ葛ざくら

2012年11月21日水曜日

蟲雙紙 010 「正月一日、三月三日は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十〉        風花銀次

正月一日、三月三日は、よろづまゆこもりたる。
五月五日、豆 娘いととんぼむつびくらしたる。
七月七日は、機織蟲はたおりむし鳴きて、芋の露にうつりたる空いと高く、雲ひとつ見えたる。
九月九日は、あかつきがたより雨少し降りて、お菊蟲も濡れそぼち、黃金わうごん色にかがよひ、大明神などともてはやされて、アリストロキア酸を蓄へたれど、やがてなよやかな蝶いでて、ややもすれば、こはれむばかりに見えたるもをかし。

2012年11月19日月曜日

短歌十首「吉丁繪」/ 齋藤幹夫

吉丁繪           齋藤幹夫

ふとしかす京の準絶滅危惧は東土龍も東男も
吾妹子よ外へな出でそそこここに五月蠅なす神おはしたまふに
老いてなほ火遊び むかし祖母おほはは蘆薈アロエを塗られたりし思ひ出
金龍山淺草寺鬼燈市に 百二十六年後にもた
楡に吉丁蟲たまむし繪柄のアロハシャツの彼奴きやつ髭風吹いて罷り越したり
赫耀と照れる水面みなものうらがはに男寡婦の鮎竝あいなめ默し

2012年11月14日水曜日

蟲雙紙 009 「童子にさぶらふ蟲は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈九〉        風花銀次

童子にさぶらふ蟲は、兜蟲のつがひにて、かぶぶん、ぶぶぶんと名づけ、いみじうをかしければ、かしづかせたるが、あるとき防蟲シートをやぶり逃げたるを、童子「いづこに行きたるか、出でよ」とよぶに、出でず。日のさし入らざるにうち眠りてゐむか、さらば褒美取らせむとて「かぶぶん、いづら。ぶぶぶん、いづら。昆蟲ゼリー食へ」といへど、かさりともいはで、ゆくへ杳としてしれず。
「あはれ、いみじうゆるぎ步きつるものを。およびにつきし蜜をぶぶぶんになめさせ、かぶぶんの大いなる角にひもかけて貨車を牽か

2012年11月12日月曜日

ひとり兎園會 1-1 「虛舟」/ 齋藤幹夫

 ひとり兎園會 ―其之壹 虛舟―                     齋藤幹夫

享和三年癸亥の春二月廿二日の午の時ばかりに、當時寄合席小笠原越中守知行所常陸國はらやどりといふ濱にて、沖のかたに舟の如きもの遙に見えしかば、浦人等小船あまた漕ぎ出だしつゝ、遂に濱邊に引きつけてよく見るに、その舟のかたち、譬へばのごとくにしてまろく長さ三間あまり、上は硝子障子にして、チヤンをもて塗りつめ、底は鐵の板がねを段々筋のごとくに張りたり。海嚴にあたるとも打ち碎かれざる爲なるべし。上より内の透き徹りて隱れなきを、みな立ちよりて見てけるに、そのかたち異樣なるひとりの婦人ぞゐたりける。                   「虛舟の蠻女」より  曲亭馬琴

2012年11月7日水曜日

蟲雙紙 008 「我らが家に…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈八〉        風花銀次

我らが家に、わらはべ出でさせ給ふに、陣はをれど、ものものしげにむかへ据ゑ、働き蟻ども、はらからとへだてなく世話すべきものとおもひあなづりたるに、忍びていとけなき者どもをとりてくらひ、さはりてえ出でねば門に近う蛹化し、羽化したるを咎むれど、聞きもあへずあわて飛び立ちけり。いとにくく、腹立たしけれど、いかがはせん。愛らしう見ゆるもねたし。