2013年4月30日火曜日
2013年4月29日月曜日
短歌&随想「烏磔星」/ 齋藤幹夫
烏磔星 -やほよろづの星々- 齋藤幹夫櫻散り梢の先に
日本神話の八咫烏は神武東征の際に、神武天皇一行を熊野から大和へと道案内をし皇軍を勝利に導いた。その功績は現代に於いても崇められ、八咫烏を祀る八咫烏神社、熊野那智大社、賀茂御祖神社もある。また陸上自衞隊の中央情報隊、中部方面情報隊、そして日本サッカー協會のシンボルマークになつてをり、一九九七年に發見された火星と木星の小惑星には後に八咫烏と命名されるなど、希臘神話の烏とは月と鼈の違ひがある。磔 の闇夜の烏かがやきにけり
2013年4月26日金曜日
小説「身代わり狂騒曲」 06 ‐ 工房 / 風花千里
身代わり狂騒曲 風花千里
第六章 工房 一 佐助は同じ町内にある春信の工房に来ていた。 工房は二十畳ほどの広さ。彫師が一人と摺師が一人、各々専用の作業台で仕事をしている。他に若い男が三人。彫師、摺師の手伝いと雑用をこなしていた。 「ちょいと! その小袖の裾の線、流れるようにひと息で彫っておくれよ。でないと、せっかくの立ち姿が崩れてしまうんだから」 弟子に案内された作業場で、あるじの春信が職人に細かな注文をつけていた。 「わかりやした」 作業台の前に座った彫師が間髪を入れずに答えた。彫師は四十前後。小柄な男で、綿の作業着の袖を紐で襷掛けにし、頭にねじり鉢巻きの
2013年4月25日木曜日
詞句窯變 ― trans haiku 006 / 風花銀次譯
Yoru nagara hana no yama towa narinikeri |
夜ながら花の山とはなりにけり |
2013年4月22日月曜日
小説「曼荼羅風」7 -芝浜- / 齋藤幹夫
曼荼羅風 齋藤幹夫
――其之漆 芝浜 ―― 「じゃあ、おことばに甘えて、ひさしぶりに一ぱいやらせてもらおうか……おっと、そうときまりゃあ、大きなものについでもらおうじゃねえか。この湯飲みにたのまあ……おっとっとっと……なつかしいなあ、おい、お酒どの、しばらくだったなあ、よくまあ御無事で、おかわりもなく……あはははは……ああ、においをかいだだけでも千両の値打ちがあるなあ、たまらねえやどうも……だが、待てよ……」 古典落語「芝浜」より 今年も残すところ今日と明日で、曼荼羅風も今日が納めというから、自宅の大掃除の手伝いを適当にやっつけて、年末の御挨拶がてらに一杯やることにした。 先客は長卓に三人。熊さんが奥に、手前に八つぁんが坐り、その間にはこの商店街の魚屋「魚金」の御亭主の金さんこと金咲さんが坐っていた。金さんは大の酒好きなのだが魚屋という商売柄、朝早く築地なんかに行かなくてはならないから、深酒は出来ないとのことで、滅多に一緒になることがない。八百屋の八つぁんも朝早く市場に行かねばならないはずだが、この人いつも飲んだくれている。 大将とこの御三方に挨拶を申し上げ、八つぁんの左隣に腰掛ける。 「金咲さん、お久しぶりです。年内はもう御仕舞ですか」 「仕舞えじゃねえよお。こいつんちは魚屋だから大晦日もやんねえと正月用の刺身が無えだのなんだのって客が大変なことになっちまう」 金さんに聞いているのに八つぁんが応える。もう慣れたがこの人は何時もこうだ。黙ってはいられない性質なのだ。 「明日は築 地 も休みよ。開 ってたとしても行かねえけどね。ぎりぎりまで仕入れて売れ残りでもしたらそれこそだかんね。納めの今日なんか大変だったよ。普段来ねえ人らがわんさか来んのよ。俺らが行く時間は場 内 までは入られねえけど、場外なんか足の踏み場も無いかんね。だから今夜はこう、のんびりとね――」 金さんはきゅうと盃を空ける。そして〆鯖、鱸、鰤、槍烏賊の刺し盛りから鱸を摘んで、また盃をきゅうと空ける。 「それにしてもよお、金ちゃんお前 、毎日魚弄ってて、酒の肴も魚で飽きねえもんかねえ」 私も同じことを思っていたが、熊さんが代弁してくれた。 「飽きないね。魚があるからこちとらおまんまが食えんのよ。それに曼 荼 羅風 はうちから卸させて貰ってる大得意さんだよ。食わねえとね。魚に飽きてたんじゃあ、商いなんか出来っこないよ。魚様様だね」 特にこの鯖の締まり具合がなんか、とか云いながら今度は〆鯖を口にする。私も食いたくなったので、温燗と一緒に注文した。 「相すみません。金咲さんに御出しした奴で出っ切っちゃいまして。今日が納めの正月休みに入っちまいますんで、多くは絞めてなかったもんですから。鱸ならありますんで、如何です」 多少残念ではあったが、大将の御勧め通りに鱸を貰うことにした。 「鱸も旨いよ。〆鯖はこれを摘みなよ。ほら」 金さんが自分の刺し盛りの皿を私の方へ近づけた。すると、目の前を通過する皿から〆鯖を一切れ摘み、口に入れる八つぁん。 「八っ、何でお前さんが食ってんだよ。おいらはこの兄さんに差し上げたんだよ」 「いいじゃあねえか、一切れぐらい。まだ残ってんじゃねえか。けちなこと云うな。お前ん店には売るほどあんだろ。でも本当に旨えや。ほら食ってみろ。旨えぞぉ」 八つぁんは、さも自分のものを分けてやったと云わんばかりに、私に勧める。うちで売っている魚とここの〆鯖は違うよ、と八つぁんに云っている金さんに礼を云って口にすると、旨い。こういうのを「いい仕事」と云うのか知らないが、要は旨ければいいのだ。私が注文した鱸も旨い。舌の上の後味を温燗で流すと、今年も終わりかあ、なんて気持が湧いてくる。 「なんだかんだで今年も終わりよお。後は紅白を視るくれえしか残ってねえなあ」 今日の熊さんは私の心の内を見透かしているようだ。金さんがそれに応える。 「うちと八んとこは明日まであるけどな。明日は早く店仕舞いするし、おまけみたいなもんだね。うん、終わったようなもんだ。でも今年は『芝浜』に行けなかったな――」 「なんだい、そりゃあ。芝の方で魚屋の寄合でもあんのかい」 八つぁんが尋ねるが熊さんが横槍を入れる。 「金、お前、なにを寝惚けたことぉ云ってんだい。芝に浜なんか無えぞ。遠の昔に埋められているじゃねえか」 「熊ちゃんも八も物を知らないから困るねえ。落語だよ。歳 末 の、それも魚屋っていったら『芝浜』だよ。ねえ、大将」 大将は笑みを浮かべて頷いている。私もそんなことなど知らなかった。熊さんは、へえ、と感心しながら、どんな噺だと聞いてくる。 「『芝浜』って噺はね――」 金さんが語り出した。 腕は立つけど大酒飲みで、飲んでゆっくり朝寝するのが気持良いと云う魚屋の金さんは、そんな様だから朝が早い魚河岸に行かずに仕事をすっぽかすことが頻 繁 で、ここのところ暫く仕事に出ていない。歳 末 も近いのに毎日がこんな有様じゃ借金を返すどころか、歳も越せないと、確 り者の女房が、寝ている金さんを起こして無理矢理仕事に行かせた。 金さん、しょうがねえと天秤担いで河岸へ行ったけれども、まだ辺りは薄暗く問屋も軒並み閉まっている。女房が時 刻 を間違って起こしまったことに気付いた金さんは、時間を潰そうと出た芝の浜で革財布を拾う。中身は小判五十両。すぐさま長屋へ飛んで帰り女房に事の次第を告げ、仲間を呼んでのどんちゃん騒ぎ。果ては酔い潰れて寝てしまう。翌朝女房に起こされて、仕事に行け、昨日の宴会の代金はどうするんだと云われる。金さんは、昨日芝の浜で拾った金で払え、なんて云うけれど、女房に、芝の浜なんかには行っていないし、宴会だけが現 で財布を拾ったのは夢だと云われ、歳末も近いというのにとんでもないことを仕出かした、われながら情けないと改心し、ぴったりと酒を止め、生まれ変わったように働きだした。 それから三年目の大晦日、表通りに小さいながらも魚屋の店を持つことが出来た。 「借金取りの来ねえ大晦日なんて嘘みてえ」 金さんは感慨深げにそう云いながら、除夜の鐘を聞いていると、突然女房が見て貰いたいものがあると切り出す。女房が取り出したのは、三年前に金さんが芝の浜で拾った革財布。それを前にして事の経緯を話しだした。五十両拾ったのは夢と云ったが本当は現実で、金さんが酔い潰れている間に大家さんに相談したところ、ねこばばすればお縄になるからお上に届け、金さんには夢だと云った次第。この五十両は落とし主が現れず手元に下がって来て、だから此処にある。金さんは、あのまんまじゃ乞食にまで身を落としたか、手が後ろに回るところだったと、女房のこの行動に深く感謝する。女房は感謝されるとは思っておらず怒られると思っていたから、機嫌直しに酒を用意していて、久し振りに一杯飲んで、と金さんに差し出す。金さんは大いに喜び久々の酒を口にしようとするが「待てよ」と盃を上げる手を止めて――。 「よそう、また夢になるといけねえ」 「――てな話だね、大将」 「はい、お上手でした。『芝浜』は噺家によって金額が違ったり、主人公の名前が違ったりしますが、筋は変わりません。昔は、拾った金でどんちゃん騒ぎして終い、ってことも云われています。他の噺も演 る人によって変わるって云えば変わるんですが、まあ、だから落語ってものは面白いんで。三代目の三木助師匠の『芝浜』は特に有名でしてね、聴いている方に情景を浮かばせようってんで、安鶴さんや学者さんらと改作されたようですが、異を唱える御同業も少なからずいたようです。歳末の高座で多く掛けられる噺ですが、こう云う噺ですから、終わり良ければ全て良しってことで聴く方にも好かれるんですかね。さあ、これ良かったらどうぞ。残り物ですいませんが」 大将はそう云いながら小鉢を四つ、帆立の浜煮を出してきた。 「おお、こいつは嬉しいね」 金さんが早速箸を付け、旨いと一声唸ると他の者も後に続く。 「旨いねえ。魚も好いが貝も好い。魚さん、貝さん、死んでくれてありがとう」 「食っている最中に気色の悪 いこと云うじゃねえよ、この蛸八っ」 熊さんに叱られて、八つぁんときたら合掌したまま口を尖らせてむくれている。本当に「蛸」八、赤い顔した茹で蛸である。 「止しなよ、熊ちゃん。蛸に失礼だ。八はあんなに旨くない。魚屋のおいらは認めないよ」 「この俺が旨くないだとっ。食ってみねえと解んねえじゃねえか、そんなこと。おい、お前も笑ってるんじゃねえよ。不味いもんにされてんだぞ、俺が。何か云ってやれよ、仲間だろ」 私にお鉢が回って来た。この前も仲間扱いされたが、断じて違う。それに八つぁん、怒り所が違うと思うのだが、口にはしない。面倒臭いので無視して、金さんに話を振ることにした。 「金咲さんは落語がお好きなんですか」 「いいや、この噺が好きなのよ。魚屋が主人公だし、成功する話だし、人情噺で良いよね。」 「悪妻身にならず、ってやつだなあ」 八つぁん、先程のお怒りはどこへやら、もう訳の分らぬことを云っている。 「八ちゃん、違うよ。それを云うなら『悪銭身に付かず』でしょう。まあ、そんなことどうでもいいよね」 金さんの言葉は優しいが内容は冷たい。 「でね、昔ひょんなことから聴いたのが切っ掛けでね、今じゃこの噺を聴かないと、歳末って感じがしないくらい。師走になると、まあ、ばたばたするけどね、昔ながらの年の瀬ってな感じが無いよね。十二月になったらこの頃は先ずクリスマスでしょう。そんで、その次が歳末だもんね。でもこの噺を聴くとね、今年も終わりだ、年の瀬だねえって気持が戻ってくるんだよね。歳だね、どうも」 「そうだなあ、慌しいは慌しいが年の瀬っていう感じがなくなったねえ、この頃は」 「お前らはものの風情っていうもんが解ってねえんじゃねえかい」 八つぁん、豪い大逸れたことを云う。 「なにが風情だ、八公風情が。泥鰌みてえな顔をして」 熊さんまたしても私の代弁者となる。 「このぉ、人のことを蛸だの泥鰌だのと――」 「まあまあ、おこりなさんな、八ちゃん、怒りたいのは蛸や泥鰌のほうだよ。あ、そろそろ帰るかな。大将、御勘定ね」 八つぁんは納得がいかない様子で引き止めようとするが、金さんは相手にせず、皆さん良いお年をね、と云いながら店を後にした。 「お後がよろしいようで」註:文中の落語の引用部分は、興津要編『古典落語』講談社文庫に拠った。
2013年4月11日木曜日
ひとり兎園會 6 「轆轤首」/ 齋藤幹夫
ひとり兎園會 ―其之陸 轆轤首― 齋藤幹夫
七兵衞の家に一婢あり。人ろくろくびなりといへり。家人にその事を問ふに違はず。二三輩と俱に夜その家にいたる。家人かの婢の寢るのを待ちてこれを告ぐ。源藏往きて視るに、婢こゝろよく寢て覺めず。 已 に夜半を過ぐれども、未だ異なることなし。やゝありて婢の胸あたりより、僅かに氣をいだすこと、寒晨に現る口氣の如し。須臾 にしてやゝ盛にの甑煙 の如く、肩より上は見えぬばかりなり。視る者大いに怪しむ。時に桁上の欄閒を見れば、彼の婢の頭欄閒にありて睡る。その狀梟首の如し。視る者驚駭して動くおとにて、婢轉臥すれば、煙氣もまた消え失せ、頭は故 の如く、婢尚よくいねて寤 めず。就て視れども異なる所なしと。源藏虛妄を言ふものにあらず、實談なるべしとなる。 「甲子夜話」卷之八より
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