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2012年8月29日水曜日

短歌十首「秘扇帖」/ 風花銀次

秘扇帖            風花銀次

心弱くなりゆく夕べいん結ばむとして指がひきつる
五欲、そのひとつを缺きし少年とすれちがふ花の奧の奧
愛想盡かしの水無月 われが拒みたるかいなかなしき曲線カ―ヴをゑがき
靈肉をたやすくわかち論ふたかが書齋の山羊が、莫迦め
鬼子母寺に石榴一顆み割れてうちつけに性力崇拜シャクティズムむずむず
ひねもす呑んだくれてゐにけりしらつゆの奧義オカルトへはなほ至りがたしも

2012年8月19日日曜日

短歌二十首「穀潰手控帳」/ 齋藤幹夫

穀潰手控帳          齋藤幹夫

良經の扇にすまふ秋風に見事帽子シャッポをぬがしめられて
弟に戀の樂しみ教えなむ この兄が戀敵とならう
戰火勃ちあがるべくしてたちあがりすさまじ曼珠沙華の一群
夜に爪切つて逢へざるものに胸ふくらませおり 蒼き若月みかづき
ひねもすや梨のつぶつぶ數へをるこの暇潰し われ穀潰し
あしひきの病ひありけり眞夜中を路面清掃車がはひまわり

2012年8月12日日曜日

俳句十句「Gekko 歌劇団」/ 風花千里

Gekko歌劇団      風花千里

傀儡のまなこの奥や蝶々雲
初霜の白のあはひに胸騒ぐ
駒下駄の雪こそげ取る別れ際
埋み火や歳月の月拾ひたる
はりまどと紙一重なり伊達気質
しはぶきにケチの頭の使ひやう
盃はもうケレン味を溢れさせ
目薬をして上らう曲輪くるわ坂
片頬で笑ひ守宮が月狙ふ
たあぷぽぽ やもりが盗んだ月はどこ?
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2012年8月5日日曜日

Baloney! - 「イワセミ」/ 風花銀次

 イワセミ◎風花銀次

 土の中で数年の幼虫時代を過ごしたのち、羽化して、岩の隙間、割れ目の中で終生を過ごすという奇妙な生活史を持つ地味な半翅目の昆虫、セミの一種が発見されたとき、色めき立ったのは生物学者やアマチュア昆虫愛好家ばかりではなかった。
 退化して小さくなった貧相な翅が、ある種のフェチを喚起するから、という説もあるにはあるが、それでは、まるで畑違いの芭蕉研究家たちが慌てふためいた理由は説明できないだろう。なぜ芭蕉研究家たちは慌てふためいたのか。

2012年8月4日土曜日

俳句三十句「烏兎匆匆」/ 風花銀次

烏兎匆匆          風花銀次

國ぶりの態位をたゞす神樂かな
去年今年流るればこそ志染川
そのさきに鳳穴あらむ揚げ雲雀
貌鳥のおのれがほなる尖りかな
蟲穴を出でざるもあり地鎭祭とこしづめ
荒壁やそこかしこなる地 祇くにつかみ
音立てて水飮む蝶や無人驛
かげろふにわれはが立つをとこかな
淺蜊ごときが舌を出しけり日向灘
天人の捨て盃か花に月
戀猫に猫ならざるはなかりけり
つちふるをうつゝの夢に告げられき
きぬ〴〵の春鹿に眉なかりけり
一蝶去つて高千穗峽のふかみどり

2012年8月3日金曜日

短歌二十首「生ける空蟬」/ 齋藤幹夫

生ける空蟬          齋藤幹夫

鬼鹿毛の馬頭觀音大祭の世話役小栗君神妙に
後朝きぬぎぬにひとり啜りし蜆汁 明日より昨日へ架かる橋はあらぬか
佐保姫のする寢屋の枕頭のボックスティッシュ 花粉症にて
裁判員席より臨むかぎろひの欠伸あくびすらも殺せず
官能の最果て知らず 綠靑の榮螺のわたがとろり取れたり
熊谷市武體に澱むぬまつぷち縮緬肌の菖蒲立ちゐし