嬰ヘ長調 風花千里 わたくしといふ回廊の行きどまりにものの芽ひとつ息づく気配 月のもの兆しのなきを案じつつ校正ゲラに赤字を入れる ゆく夏に背を押されながら恋人へ肉屋の前で妊娠告げる 母子手帳交付とともにひとひらの母性をいだく ここよりは秋 胎児はやヘ音記号のなりかたち弾ませながら心拍きざむ 天井の柾目揃ふをあふぎつつ流れ流れて行くのもいいか 高気圧はり出すゆふべ浴槽のさざ波たてる腹部のあたり
2017年10月21日土曜日
短歌十首「嬰ヘ長調」/ 風花千里
2017年10月16日月曜日
短歌五首「七代先まで」/ 風花銀次
七代先まで 風花銀次 「猩々蠅」を「少女奪え」と誤變換したり蒲鉾板のごときが 猩猩蠅の代替はりすこやかならず されどすみやかなる箱の中 ラッキーセブンの七代目にて一身に祟りをお引き受けいたします 隔世の隔たりすぎて末の世のあなたを祟つたものか、どうか 二重螺旋、それよりもその黑髮をほどいたり編んだりほどいたり
2017年10月11日水曜日
短編小説「デトックス」/ 風花千里
デトックス 風花千里 酒を飲むと蕁麻疹が出る。 女房に話すと、エステに行くことを勧められた。 「体内の毒素を排出させる健康法があるの。長年の飲酒で毒素が溜まっているのよ」 数日後、エステとやらを訪ねた。清潔でゴージャスな空間を想像していたが、該当する住所には壁面に染みがついた雑居ビルがあるばかり。三階に上がると、確かに「毒出しいたします」という看板が出ている。 中に入る。受付のおばさんがカルテを作り、甚平のような施術着を渡してくれた。裸の上にそれを着た俺は、あれよあれよという間にカーテンの向こうに誘われる。 「私に背を向けて横になって」 若いエステティシャンではなく、真っ白い口髭をたくわえた爺さんがいろいろな管の伸びたベッドを指した。横になると、爺さんは俺の背後でなにやら機械をいじっている。
2017年10月7日土曜日
童話「だんご屋ハチベエ」/ 志野 樹
だんご屋ハチベエ 志野 樹 「へい、いらっしゃい」 木もれび山にある峠のだんご屋から、この店の主人、ミツバチ・ハチベエの威勢のいい声が聞こえてきます。 だんご屋は連日、動物たちで大にぎわい。山のあちこちからお客がやってきます。 「おだんご三本くださいな」 「はい、ハチミツ入りだんごです。おいしいですよ」 「こっちには十本くれるかな。子どもたちがおなかをすかせて待ってるんだ」 「へえ、承知しました。たくさん買っていただいたので、一本おまけです」
2017年10月1日日曜日
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