秋楽章 風花千里 秤とミモザさりげなくかつ去り難く撫であげてゆく風の羞 しき 金鈴のころがるごとしビブラート奏でるときに転 ぶ喉骨 気圧高まる真昼間きみの口腔の深き泉に渇きをいやす 殉教図壁に懸けて眺めるなら対の絵としてこの身かけおく 目覚めれば傍らの人の肉桂の匂ひともなひ閉じてゆく秋 つややかな蜘蛛の褥に顕 ちきたる朝の滴の千の目咎む
2017年9月21日木曜日
短歌五首「秋楽章」/ 風花千里
2017年9月15日金曜日
短歌十首「菊ちやん」/ 風花銀次
菊ちやん 風花銀次 菊之助と名づけ愛しし陸龜を遺して妻ははや逝きしかも 名を呼べば驅け寄る龜のつぶらなる黑き瞳に妻がしのはゆ 菊ちやんと日にいくたびも聲をかけ龜が鳴くてふ春ぞかなしき 小松菜一把食 べてもなほ足らぬげにわが顏を見る龜に聲なし 菊ちやんのために草摘み妻のため花摘む野邊に日 照 雨 降りけり 部屋ぬちに放てば我のあとに付き從ふ龜の菊之助愛 し 晝下がり龜が水飮む音にさへ驚く靜かなる部屋なりき
2017年9月11日月曜日
短編小説「かっちん虫、跳んだ。」/ 風花千里
かっちん虫、跳んだ。 風花千里 仕事で大きなミスをした。取引先の業務に支障をきたしたので、先方の事務所へ謝罪に行き、会社に戻るところだ。上司である田中さんも同行してくれていた。 田中さんと並んでオフィス街を歩く。歩道に点在するベンチには、外回りの男たちが湿気を含んだ風に顔をしかめながら休んでいる。先方が了承してくれたとはいえ、自分の不注意でミスをしたショックは大きかった。足取りは重く、履き慣れないパンプスの踵が地面に触れるたび、リズムを乱した打楽器のように情けない音をたてた。 田中さんは、暑さの残る時期だというのに濃紺のスーツを着て一分の隙もない。口数が少なくてきぱきと仕事をこなすので会社では頼りにされているけれど、アンドロイドみたいに冷徹な印象があってわたしは彼が苦手だ。 話すこともないので下を向いていたら、田中
2017年9月7日木曜日
童話「ダッキィおばさんと七羽の子ども」/ 志野 樹
ダッキィおばさんと七羽の子ども 志野 樹 たんぽぽ村のみどりが池。ここでは、けたたましいかけ声で、朝がはじまります。 「ガア、ガア、ガア。まったくなんておねぼうなんでしょうね、この子たちは。とっととおきなさい、ガア」 アヒルのダッキィおばさんが、子どもたちをおこしているのです。 ダッキィおばさんの子どもは、ぜんぶで七羽。女の子が四羽と男の子が三羽です。 「えー、もっとねたいよう」 「まだ、お日さまが出てないよ」
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