2018年3月31日土曜日
2018年3月25日日曜日
短編小説「花の雨」/ 風花千里
花の雨 風花千里 妙さんは公園の小道を歩いていました。手には白いつえ。事故で光を失って以来、いつも共に歩んでいます。 妙さんはベンチに腰をおろしました。シジュウカラやメジロのさえずりに耳をかたむけます。この公園は桜の名所です。休日の今日、園内はたくさんの人で賑わっていました。 二種類のリズムのちがう足音が近づいてきました。 「となりに座っていいですか」 女の人の声がしました。おちついた声の感じから、還暦をすぎた妙さんと同じくらいかもしれません。 「どうぞ」 妙さんは体をずらして席をあけました。こんでいるのでベンチをひとりじめするわけにはいきません。 「私は端でいいから、あなたはまん中へどうぞ」
2018年3月23日金曜日
俳句三十句「夢見具佐」/ 風花銀次
夢見具佐 風花銀次 きのふにも似ぬ戀びとや初櫻 二日三日そらをつかひて初櫻 はらみ句の遣ひどころや初櫻 初櫻きのふとけふのあり渡り 寢て起きてべた一面の櫻かな八分咲 よりかぶよりぶたの櫻哉 さくらさくらさくらひらかなのうれしさ 世の中は屁のつつぱりのさくら哉 世の中を屋臺崩しにさくら哉 いなせなる名なしをとこや伊勢櫻 斷倫や下戸まざりゐる花の下 よんどころなくて花みる理屈かな 孤閨をかこつごときもありぬ姥櫻 朝櫻咳いては韻を踏み損ね
2018年3月8日木曜日
短歌十首「銀の朝」/ 風花千里
銀の朝 風花千里 へその緒につながれしままの子を胸にりんごジュースで空腹満たす 産み終へてまどろむ中にさびいろの三葉虫と顔合はせけり 産着よりのぞく手足に触れしとき信じられたよ明日があること 春の足音察したきみが一心に吸ふおつぱいに紅梅咲 く 騒音と鴉の声で目覚めたるきみにもしばし銀の朝来る 息はづむ宅配便の兄さんに玄関先が微熱を醸す 過去の恋おもひて乳を含ませるまひるま蜂の羽音がゆらぐ
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