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2012年12月19日水曜日

蟲雙紙 014 「八幡社の…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十四〉       風花銀次

八幡社のみんなみを向きて立ちたる鳥居には、六本脚の、群るるものどものおそろしげなる、脚長蜂の巣ぞかかりたる。参詣のをり、刺されたるひとありて、弓矢八幡ゆゑと、にくみなどしてわらふ。

 脚長蜂は雀蜂科だけあって、それなりにおっかないんですが、蜾蠃すがるほどではないにしろ、雀蜂とは違って細い腰がいろっぽく、つい見とれっちまいます。蜾蠃すがるおと弱女おやめなら、脚長蜂のお姉さんはボンデージファッションの侠女でしょうか。
 まあ、おっかないったって攻撃性は強くなく、巣を刺激しなけりゃあ刺されることはまずないし、雀蜂ほど毒は強くない。ただし刺されりゃ痛い。またアナフィラキシーショックを起こすこともあるそうで、あたしは幼少のみぎりに刺されてるから気をつけなくちゃいけないね。
 そんでも見とれっちまうんだから、とにかく魅力的なわけです。
 そんな魅力的な脚長蜂の仲間は日本では三属一一種が棲息してて、東京都練馬区の、あたしが住む街では二紋脚長蜂をよく見かけますが、背黒脚長蜂なども市街地に多く、かっこよいので人気があります。ただし、あたしが好いてんのは、よりスマートな姫細脚長蜂です。
 はい、どの脚長蜂が好きかなんて、多くの人には興味がなく、興味がない人にはどうでもいいお話。でもね、世の中の大部分は、あたしやあなたにとって興味のないことで出来上がってんです。
 膨大な興味がないことのほとんどは共通してるのに、数少ない興味の対象が違ってるだけでお友達になれないてのも、よくよく考えると不思議ですね。
 あたしは相手に合わせて興味があるふりをしてまでオトモダチモドキがほしいなんて思いませんが、今回誤解を招かないよう一言付け加えるなら、ふとっちょも好きよ、ってことでしょうか。
 熊蜂とか、丸花蜂とかね。

1 件のコメント:

  1. 【現代語訳】
    八幡神社の南を向いて立っている鳥居には、おっかないアシナガバチが群れをなして巣をかけていたの。お参りのときに刺された人が「弓矢八幡というからしょうがないね」なんて、忌々しげにわらっていたわ。

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