2018年7月31日火曜日
2018年7月27日金曜日
短歌十首「夏の痕」/ 風花千里
夏の痕 風花千里 牛乳とほんの少しのいらだちが炭化してをり鍋のそこひに 猛毒が乳を介して溶けてゆくらし いかづちに傾ぐ樫の木 洗濯槽のぞきこむうち湧きあがる耳鳴りのどこかなつかしきかな わたくしと初夏の風にくるまれて汗ばむきみは野芹のにほひ わが唄ふわらべうたとらへむとして小さき耳は開くひるがほ 行水ののちに裸で転ぶ子に球根植物植ゑる日近し 瞬きのあはひに夜のほころびを見つけて泣いてゐる子のありき
2018年7月23日月曜日
短歌十首「酷暑見舞」/ 風花銀次
酷暑見舞 風花銀次 夜涼みに出れば川面をわたりくる風なまぐさし うつつの川の くさい、うるさい、うるさい、くらい新月の夜の電車が家路を急ぐ 繁華街拔けむとするにをとこらが蒸れてこのうへもなく見苦し エアーコンディショナーあはれビルヂングせなかあはせの路地裏をゆく 熱中症にて地上には出ざるまま死したる油蟬數 萬 匹 遺棄された危險在來生物が、ほら、わたくしのなかの暗渠に 東京大虐殺あらむ 元號は知らねど庚子文月末とか
2018年7月21日土曜日
小説「蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章」08 / 風花千里
蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章 風花千里
第八章 徘徊する猫 絹布に天鵞絨の縁取りを施した三つ布団の上で、綾錦が「うーん」とうめいている。 光沢のある豪華な布団の上で、うつ伏せになって、だらしなく伸びている姉女郎の姿を前に、菊乃は当惑した気持ちを隠せなかった。菊乃は、歌乃と初糸とともに、湯殿から戻ってきたところであった。 「花魁、お加減はいかがですか?」 綾錦と一緒に部屋に残っていた八橋が、心配そうに呼びかけた。 「あぃたたたたっ。八橋、そう大きな声で話すでない。うるさくて頭が割れそうだ」 綾錦は、ほつれた鬢のあたりに手をやると、大仰そうに顔をしかめた。綾錦の枕元には、小
2018年7月18日水曜日
2018年7月14日土曜日
2018年7月12日木曜日
童話「かぶと森」/ 志野 樹
かぶと森 志野 樹 幼稚園の夏休みです。シンはじいじの家に一人で泊まっていました。ママが乳がんという、おっぱいにおできのようなものができる病気で手術することになったからです。パパは会社が遠くなってしまうので、じいじの家には泊まれません。 じいじは一人で暮らしていて、洗たく、そうじ、料理となんでもできました。 「森へ行ってみよう」 じいじがそう言ったのは、シンが来た翌日のことでした。夜、ママを恋しがって泣いたシンは目がはれて真っ赤になっていました。 森の中を歩くと、まだ日も高くないの
2018年7月10日火曜日
俳句十五句「琱蟲篆刻」/ 風花銀次
琱蟲篆刻 風花銀次 訃報屆くさきがけて初蝶來たり 蟻穴を出て人間 に入りにけり しみ〴〵と鼻高きかなしゞみ蝶 一蝶雄辯にてふ〳〵てふ〳〵と豆 娘 生まれてはねのありどころ 草に花粉こぼして虻の聲小 さし 死刑実況聞かさる蠅に見られつゝ 蜉蝣や動詞的形容詞的 ぬきあしさしあし踵 行 蟲 かな 不完全變態少女夏深し 昏きより山繭蛾科の女かな なゝふし死すといへど擬態しつぱなし琱 蟲 は蟲に如かざり秋隣る 失戀未遂して鳴く蟲にいひおよぶ深々 と火蟻眠れり凍港
2018年7月7日土曜日
小説「蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章」07 / 風花千里
蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章 風花千里
第七章 森田屋の苦悩 「これはこれは、花魁。旦那様がお待ちですよ」 引手茶屋、枡屋の女房のお久が、相好を崩して綾錦の一行を出迎えた。お久の背後には、これまた商売気たっぷりに顔を綻ばせた亭主の喜之助が控えている。 枡屋の入口の柱には、屋号が書かれた掛行灯が掛かっているが、まだ八つ半という時刻ゆえに灯は入っていなかった。入口の脇に吊られ、棒で内から外へ突き出した青簾が、折からの寒風にゆらゆらと揺れている。 「遅くなりいした」 お久に声を掛けられ、綾錦は《ますや》と染め抜いた軒暖簾をくぐって、茶屋の中に入った。菊乃、歌乃、初糸、八橋が綾錦の後に続く。
2018年7月4日水曜日
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