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2018年7月27日金曜日

短歌十首「夏の痕」/ 風花千里

夏の痕          風花千里

牛乳とほんの少しのいらだちが炭化してをり鍋のそこひに
猛毒が乳を介して溶けてゆくらし いかづちに傾ぐ樫の木
洗濯槽のぞきこむうち湧きあがる耳鳴りのどこかなつかしきかな
わたくしと初夏の風にくるまれて汗ばむきみは野芹のにほひ
わが唄ふわらべうたとらへむとして小さき耳は開くひるがほ
行水ののちに裸で転ぶ子に球根植物植ゑる日近し
瞬きのあはひに夜のほころびを見つけて泣いてゐる子のありき

2018年7月23日月曜日

短歌十首「酷暑見舞」/ 風花銀次

酷暑見舞          風花銀次

夜涼みに出れば川面をわたりくる風なまぐさし うつつの川の
くさい、うるさい、うるさい、くらい新月の夜の電車が家路を急ぐ
繁華街拔けむとするにをとこらが蒸れてこのうへもなく見苦し
エアーコンディショナーあはれビルヂングせなかあはせの路地裏をゆく
熱中症にて地上には出ざるまま死したる油蟬まん匹
遺棄された危險在來生物が、ほら、わたくしのなかの暗渠に
東京大虐殺あらむ 元號は知らねど庚子文月末とか

2018年7月21日土曜日

小説「蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章」08 / 風花千里

2018年7月12日木曜日

童話「かぶと森」/ 志野 樹

かぶと森          志野 樹

 幼稚園の夏休みです。シンはじいじの家に一人で泊まっていました。ママが乳がんという、おっぱいにおできのようなものができる病気で手術することになったからです。パパは会社が遠くなってしまうので、じいじの家には泊まれません。
 じいじは一人で暮らしていて、洗たく、そうじ、料理となんでもできました。
「森へ行ってみよう」
 じいじがそう言ったのは、シンが来た翌日のことでした。夜、ママを恋しがって泣いたシンは目がはれて真っ赤になっていました。
 森の中を歩くと、まだ日も高くないの

2018年7月10日火曜日

俳句十五句「琱蟲篆刻」/ 風花銀次

琱蟲篆刻          風花銀次

訃報屆くさきがけて初蝶來たり
蟻穴を出て人間じんかんに入りにけり
しみ〴〵と鼻高きかなしゞみ蝶
一蝶雄辯にてふ〳〵てふ〳〵と
豆 娘 いとゝんぼ生まれてはねのありどころ
草に花粉こぼして虻の聲さし
死刑実況聞かさる蠅に見られつゝ
蜉蝣や動詞的形容詞的
ぬきあしさしあし踵 行 蟲かゝとあるきかな
不完全變態少女夏深し
昏きより山繭蛾科の女かな
なゝふし死すといへど擬態しつぱなし
琱 蟲 てうちゆうは蟲に如かざり秋隣る
失戀未遂して鳴く蟲にいひおよぶ
深々しん〳〵と火蟻眠れり凍港

2018年7月7日土曜日

小説「蝶々雲――かむろ菊乃の廓文章」07 / 風花千里