身代わり狂騒曲 風花千里
第十章 狂乱 一 佐助はお仙が帰った後の座敷で、独り項垂れていた。 「俺は源内の抜け殻か……」 源内は殻を脱いで冥土へ向かったというのに、世間は抜け殻を後生大事に崇め奉っている。春信も、平角も、南畝も、そしてお仙も。 誰も彼もが、佐助を甦った源内として扱ってくれる。が、佐助の本性には目を背け、見ない振りをした。 「抜け殻ってえのは中身が空っぽだ。だからといって、なぜ俺の中身も空っぽだと決めつけるんでえ。俺はこうしてものを考えたり、女子に惚れたりするじゃねえか」 気がつけば、拳を握りしめていた。