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2012年10月31日水曜日

蟲雙紙 007 「思はん子を…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈七〉        風花銀次

思はん子を蟲屋になしたらんこそは、いと心苦しけれ。道をはづれたるよと思はるるこそ、いといとほしけれ。採卵し孵化したるさき蟲を、草を刈り木の葉をつみて食はしめ、兩用の便宜を圖り、かひがひしく世話して、ぷりぷりに太りたるがやうやう蛹になりて羽化したるを翅のいたまぬうちにあやめ展翅したれば、なさけなからずいふ。まいて、甲蟲屋などはいと苦しげなめり。展脚すれば「針山地獄に落ちたるごとし」などもどかる。いとところせく、いかにおぼゆらむ。
これは昔のことならず。今もかくのごとし。

2012年10月27日土曜日

俳句三十句「金谷酒數」/ 風花銀次

金谷酒數          風花銀次

この神酒はわが神酒ならめけふの月
泣き上戸泣きだすまでが月見哉
さかつきが妻よりいづる雨月かな
つゆほどのむかしかたぎや菊の酒
物理とはもののことはりぬくめ酒
彼岸卽此岸殘んの酒いづこ
おしいたゞく駄句をすなはち賢酒とぞ
藝術の術のほかなる琴酒かな
しぐるゝやまたくりかへすまはしのみ
燗性のちがひを云ひて別れけり
去年の酒今年の酒とつらぬけり
屠蘇さつさつと急所をついてながれけり
わらひ下戸てふもありけり四方の春
むかしびて奇特あり南無般若湯

2012年10月26日金曜日

小説「身代わり狂騒曲」 01 ‐ 佐助の憂鬱 / 風花千里

2012年10月24日水曜日

蟲雙紙 006 「おなじ蟲なれども…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈六〉        風花銀次

おなじ蟲なれども、きき耳ことなるもの。つくつく法師。鈴蟲。松蟲。蟋蟀こほろぎ螽斯きりぎりす。おほよそ蟲の音は聞くひとにより聞きなすものなり。

2012年10月23日火曜日

小説「曼荼羅風」1 -天災- / 齋藤幹夫

2012年10月20日土曜日

俳句十句「栄花は夢」/ 風花千里

  栄花は夢           風花千里
恋川春町こいかわはるまち〉江戸中期の戯作者、浮世絵師。酒 上 不埒さかのうえのふらちという狂名を持つ狂歌師でもあった。駿河小島藩家臣。『金々先生栄花夢きんきんせんせいえいがのゆめ』で草双紙界に新風を吹き込む。寛政の改革を題材とした黄表紙『鸚鵡返文武二道おうむがえしぶんぶのふたみち』で老中松平定信の怒りを買い、進退に窮した春町は自害して果てたとも伝えられる。
  桔梗きちかうや野暮に仕立てし細面   螻蛄鳴けり俺は無芸とうそぶきて   酒の上の不埒、放埒 栗拾う   月夜かな詠める阿呆に読むあほう   天明の浮かれ騒ぎよ寒波来る   冴えかへる手におしろひを塗る仕草   きぬさらぎ酔眼の底怒りけり   曲水の酒は澄み腑は冥みたる   黄表紙と果てし春町針供養   夏枯や ほんに覚悟の白小袖
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2012年10月17日水曜日

蟲雙紙 005 「五月、祭のころ…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈五〉        風花銀次

五月、祭のころいとをかし。竝揚羽、黃揚羽の翅の模樣のけぢめばかりならず、黃みの薄き濃きもありてをかし。木々の木の葉、まだいとしげうはあらで若やかに靑みわたりたるに、おとづれたる蝶のあの葉この葉とたたきてゆくは、太鼓の稽古のごとくありて、かそけき音のたどたどしきを聞きつけたらむはなに心地かせむ。
祭ちかくなりて、黑揚羽、烏揚羽などのをどり舞ひつつ、山椒に觸れ、枳殼からたちなどをかすめて、いきちがひとびありくこそをかしけれ。疾く遲く、つねながらをかしう見ゆ。尾狀突起のすりきれて、打ち枯らしたるも

2012年10月11日木曜日

小説「仁丹塔」/ 齋藤幹夫

2012年10月10日水曜日

蟲雙紙 004 「三月三日…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈四〉        風花銀次

三月三日、うらうらとのどかに照りて、いま咲きはじめたる桃の花に蜜蜂など、いとをかしきこそさらなれ。根方の土のなかにまゆごもりたる天蛾すずめが、翅の廣ごりたるおのがすがたをゆめにみて身じろくこそをかしけれ。
さくらの花おもしろう咲きたるといへど葉のなかりけるはわろし。やまざくらなど葉がくれにすこしく咲きたるこそ、いみじうをかしけれ。「あ、あれにひときはおほいなる花が」と家人のおどろきゆびさすかたを見れば、翅をやすむる羽化したばかりなる大水靑蛾おほみづあを、いとをかし。

2012年10月7日日曜日

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2012年10月4日木曜日

短歌十首「年增女誑」/ 齋藤幹夫

年增女誑        齋藤幹夫

戀敵かたきなど眼中に無き惡友の近視老眼亂視色弱
羨望のまなざしてふも皮肉めき食用の馬賣るはつなつの市
祝花いはひの日の出蘭の鉢植ゑ轉がつて酒舖「ガルシア」の亂癡氣騷ぎ
なるか長髓彦の 賑賑しわかものの膝覗きしデニム
御亂心遊ばされるなアニメ『家なき子』に淚流せし父よ
庭の大盞木切り倒す三界の一界の家引き拂ふべく

2012年10月3日水曜日

蟲雙紙 003 「正月一日は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈三〉        風花銀次

正月一日は、まいて空のけしきもうらうらと、めずらしうさき蝶など舞ひいでたるに、現世利益をもとめて列をなすひとびとには見えず、わらはべのいくたりか指さし、ゑまひてのち手を合はせたる、さまことにをかし。
七日、ななくさのほかの立ち枯れの草になにかの蛹、若菜つむをわすれ、いかなる蟲かと思ひめぐらすこそをかしけれ。持ち歸りて、いかなる蟲か賭けむといへば、家人さんざめき、穢し、捨てたまへ、などくちぐちにののしりて近う寄らざりけり。かつて「本地ほんぢたづぬるこそ心ばへをかしけれ。