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2012年12月29日土曜日

俳句三十句「泥匠日記」/ 風花銀次

泥匠日記         風花銀次

鳴く蟲にいひおよびけり壁を塗る
鏝を洗ふ桶ふたつとも秋の水
漆喰の鶴がはねかく小春かな
しぐるゝや壁の鏝繪の虎も壁も
建てさして餠つく音を入れにけり
短日のおのが影塗る左官かな
塗り込めておのれなくなる左官かな
さがりや土壁ほどけつゝながらふ
初凪や地の鹽としてなまこ壁
春の土春の水もて結ぼほる
あたゝかや鏝あたりきに動きだす
うらゝかやなでてやらねばたゞの土
春風や手斧てうなはつりの梁ひとつ
おもしろやすさにまざれるこぼれ梅

塗る壁に散りゆく影も櫻かな
胡蝶かとみれば壁塗る左官かな
初蝶に塀つゞる音しづかなり
雀きて雀をよばふ家見かな
雀きて瓦をほめて去ににけり
墨壺のいづれも無銘風薰る
ほのかたらひしひとはつばくろ大工かな
白南風に吹き流しけり鉋屑
二の腕の見ゆるともなき涼みかな
しづかさや白雨ゆふだちながら槌の音
大工來て細工にはげむ暑さかな
夏深し常世のはてにほたる壁
立つ秋の摩訶不思議なる繼手かな
錆壁のいよいよさびて秋に入る
新た夜ののみがしたしむ砥石かな
名月や硏ぎ一生の人とあり
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