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2012年9月15日土曜日

短歌三十首「戲遊軍嬉遊曲」/ 齋藤幹夫

戲遊軍嬉遊曲       齋藤幹夫

梅擬一枝手折りてすゑの世にいでたる花の景季もどき
料理敎室混じる二、三のますらをに薔薇ばらばらにばらされあはれ
梅雨の世につゆほどおもふことなけれども雨男佐佐木信綱
屁理屈のなまぐさき惡友をくろ握り潰せし拳
愛でもくらひやがれ!文月ふづきの水槽に幾色か缺く 虹 霓 魚レインボウ・フィッシュ
愛人のはだへにふれず牀の閒にかざりしでむとしよう
われ迷ひ込みたるゆゑに新宿區百人町に吹くむかひかぜ
煉獄に秋風吹きてふとぶとと黃金こがね向日葵ひぐるま直立に死す
葉月盡 あまたありける死のかたちボードレールは母の胸にて
朱欒ザボン飛沫しぶきまなこ刺したり「すべて惡を行ふ者は光をにくみ」
官能をくすぐられつつ衣 被 きぬかつぎきぬがしめていざきぬぎぬを
神童にほど遠かれどかれにさへ纖月ほどのこころざしあり
竈馬奔り『駈け込み訴えに』ぶち當たりこの罰當たり奴が
本銀鑄物純金細引の引手「若月みかづき」誰持ちゐしか
しろがねの秋風に肩斬られゐて步める出雲組のちんぴら
初戀の人の名忘れ柞葉ははそは祖母傾國定公園そぼかたむきくていこうゑん
石榴爛熟のちひからびて「魔王、わが 長き悲慘を憐み給へ」 くれなゐの色のはなやぎ葬送の列に侘助椿つらなり 無月無言に步みつづける逢引の途中どこかに火事はあらぬか 後朝のまだ暗闇にもうすこし寢かせてくれよ喇叭水仙 血だまりのごとき薄氷うすらひくれなゐの朝燒けのけふ實朝忌なり 啓蟄に鍵掛け忘れ興ずるは腦 介 機 裝 置ブレイン・マシン・インターフェイス 後京極攝政太上大臣忌 天幕に星ひとつ失せたり 底冷えの今朝またわれは生きのびて蜆朱椀に沈みて死ねり 禁斷の戀などあるか歸る雁はばたきふたりあわてふためき 春泥の泥の枷ぬけられぬ蝶 戲を見てせざるは遊無きなり 茶室掛障子かけしやうじ椿の影うつすのみのもてなしよみす夕暮 天空に溺る雲雀の斷末魔聽かむにヴィヴァルディ「春」が邪魔 飛燕草ひえんさうに翔びたつ決定的瞬閒を見逃してしまつた たましひのいきつくさきを見にゆかむそのまへに「篝火」を二、三杯
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