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2012年12月29日土曜日

俳句三十句「泥匠日記」/ 風花銀次

泥匠日記         風花銀次

鳴く蟲にいひおよびけり壁を塗る
鏝を洗ふ桶ふたつとも秋の水
漆喰の鶴がはねかく小春かな
しぐるゝや壁の鏝繪の虎も壁も
建てさして餠つく音を入れにけり
短日のおのが影塗る左官かな
塗り込めておのれなくなる左官かな
さがりや土壁ほどけつゝながらふ
初凪や地の鹽としてなまこ壁
春の土春の水もて結ぼほる
あたゝかや鏝あたりきに動きだす
うらゝかやなでてやらねばたゞの土
春風や手斧てうなはつりの梁ひとつ
おもしろやすさにまざれるこぼれ梅

2012年12月26日水曜日

蟲雙紙 015 「文机のよこに…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十五〉       風花銀次

文机のよこに、あをきかめのおほきなるをすゑて、櫻の若葉いみじうしげりたる枝の五尺ばかりなるを、いと多くさしたれば、文机のうへに葉こぼれ落ちたる、ひるつかた、雌赤緑小灰蝶めすあかみどりしじみの、少しなよらかなる終齢幼蟲、のこりぎくのかさねたるごとき、いとあざやかなるが這ひまはりたり。書く手をやすめ見入りてあれば、茶をもてきたる家人、有職故實も知らぬげになどいふ。

2012年12月24日月曜日

小説「曼荼羅風」3 -牛ほめ- / 齋藤幹夫

2012年12月19日水曜日

蟲雙紙 014 「八幡社の…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十四〉       風花銀次

八幡社のみんなみを向きて立ちたる鳥居には、六本脚の、群るるものどものおそろしげなる、脚長蜂の巣ぞかかりたる。参詣のをり、刺されたるひとありて、弓矢八幡ゆゑと、にくみなどしてわらふ。

2012年12月18日火曜日

緑月亭&齋藤幹夫「二律背反」


二律背反        俳句◎緑月亭            短歌◎齋藤幹夫 棘が葉に摘むもをかしきべにの花 言の葉をやいばに變へて一身に返り血浴びむ覺悟はありや 死してまでなに抱へ込みたりや蝉 死してしかばね拾ふ者ゐて油蝉なほも虚空に獅噛みつきたる 瓜つるりとして憎たらし戀 敵こひがたき 八百八の瓜賣るあにいれての祭と後の情事と

2012年12月15日土曜日

ひとり兎園會 2 「肉人」/ 齋藤幹夫

 ひとり兎園會 ―其之貳 肉人―                       齋藤幹夫

  神祖、駿河にゐませし御時、或日の朝、御庭に、形は小兒の如くにて、肉人ともいふ  べく、手はありながら、指はなく、指なき手をもて、上を指して立たるものあり。見る  人驚き、變化の物ならんと立ちさわげども、いかにとも得とりいろはで、御庭のさうざ  う敷なりしから、後には御耳へ入れ、如何に取りはからひ申さんと伺うに、人見ぬ所へ  逐出しやれと命ぜらる。やがて御城遠き小山の方へおひやれりとぞ。或人、これを聞て、  扨も扨もをしき事かな。左右の人たちの不學から、かかる仙藥を君に奉らざりし。此れ  は、白澤圖に出たる、封といふものなり。此れを食すれば、多力になり、武勇もすぐる  るよし。                         「一宵話・卷之二」より  牧墨僊

2012年12月12日水曜日

蟲雙紙 013 「山は…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十三〉       風花銀次

山は、浅間山。妙高山。雨飾山。白馬岳。雪倉岳。てふてふ舞はんとをかしけれ。祖母山。茂見山。大崩山、よそより見るぞをかしき。国見岳もをかし。ちちははのそだててくれし恩おもひ出でらるるなるべし。時雨岳。小川岳。

2012年12月7日金曜日

「蟲雙紙」を現代語訳しました

非常に奇特な方がございまして「蟲雙紙」の文語部分を現代語訳してほしいなんておっしゃいますので、訳しました。といっても、わざわざあらためて単独ページをつくるほどでもございませんから各段のコメント欄にて披露しています。
なんだかオネエ言葉になってんのもありますが、もとが「枕草子」のパロディーだってのを意識しすぎちゃったんでしょうかねえ。まあ、よしとしましょう。
そんで、意訳を踏まえたうえで、あきらかな誤訳がございましたら、というのもおかしな話かもしれませんが(なにしろ自分で書いたものを自分で訳してるんですからね)お知らせください。
「文語文のほうがおかしい」てことも含めてご教示いただけたらなによりです。はい。

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2012年12月5日水曜日

蟲雙紙 012 「淺葱斑蝶はひむがしをば…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十二〉       風花銀次

淺葱あさぎ斑蝶まだらはひむがしをば、ふるさとといふ。
劍山のはるかにたかきを、共連ともづれ「いくひろあらむ」などいふ。知らざれば、しばし思案して「の山ほどにはなからむ」とのたまひしを、土佐國にてやすみしをり、旅の無事を祈りて、ささをくだされ給へるに、したたかにゑひたれば、ゆゆしうたかく舞ひけり。
さめたるのちに、「富嶽をも越えけむ」といへば、「メートルが上がりたる」とわらひ給ふ。
「日向國ひうがのくにでは燒酎し。琉球國りうきうこくでは泡盛欲し」といひけむこそをかしけれ。

2012年12月3日月曜日

ひとり兎園會 1-2 「虛舟」 二次會 / 齋藤幹夫

 ひとり兎園會 ―其之壹 虛舟― 二次會                       齋藤幹夫

  人間は到底絶對の虛妄を談じ得るものではないといふことが、もしこの「うつぼ舟」  から證明することになるやうなら、これもまた愉快なる一箇の發見と言はねばならぬ。                         「うつぼ舟の話」より  柳田國男