身代わり狂騒曲 風花千里
終章 旅立ち 一 明和七年十月十五日 空がうっすらと白み出していた。 空気は冷たいが、風もなく、旅立ちには打ってつけの朝だった。 木挽町の下屋敷で、田沼意次に長崎行きを告げられてから、一年以上が過ぎていた。 佐助はすぐにでも長崎へ向かいたかった。ところが、その前に秩父鉱山の再開発の話が持ち上がった。以前は石綿や金の採掘が主だったが、再開発は鉄の採掘を目的としていた。 殖産興業に意欲を燃やす意次は、鉄鉱にいたく興味を示し、内々に、佐助に調査を命じた。佐助は一年をかけて鉱脈の調査を進め、幕府に
2014年4月28日月曜日
2014年4月18日金曜日
両吟歌仙「とろゝ汁」/ 銀次&千里
両吟歌仙「とろゝ汁」 風花銀次 風花千里いつどこで巻いたものやら定かならねど文筥の底より出で来たるゆきし春の膝送り両吟歌仙。いづれにしろ若書きだから、粘りはないがあまあま。 ちと唐辛子が欲しいねぃ。 遅き日や芭蕉も食ひしとろゝ汁 銀次 やまと糊にもふる春埃 千里 遠足のくつ、くつ、くつがみな弾み 仝 雲の上なる峯にありけり 次 小さかる窓こそよけれ夏の月 仝 白百合ばうと立つを引き抜き 里
2014年4月6日日曜日
小説「身代わり狂騒曲」 13 ‐ 蘇る源内 / 風花千里
身代わり狂騒曲 風花千里
第十三章 蘇る源内 一 「ふー、暑い」 大判の団扇で仰ぎ、佐助ははだけた浴衣の中へ風を送った。行水をしたばかりなのに、もう汗を掻いている。 二階から見える空は真っ白な入道雲を侍らせ、日光は肌を焦がすような強さに満ちている。ひと月ほど続いた梅雨も終わり、眼に入ってくる全てが夏の到来を告げていた。 浴衣の袂から、昼過ぎに届いた文を取り出し、ざっと読み返す。 ──いったい何をしに来るんだ。 差出人は南畝。相談したい件があるから家で待っていろ、という内容だった。 ──糞暑いのに、ご苦労なことだな。辿り着
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