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2017年4月16日日曜日

連作短歌三十首「お月さま、おねがひ」/ 風花銀次

お月さま、おねがひ    風花銀次

滿員の電車にまんまるいお月さまが窓から乘り込んできた
 ☆……‥‥・・ ・
       ・ ・・‥‥……☆
「ドレッドヘアの彗星が大接近!」と見出しが躍るけふの夕刊
星形のにんじん溶けてしまふまで煮こんだシチューふたつください
火星からやつてきたんだ。ほんたうさ、蝙蝠をひとつがひつれてね
今は日雇ひ勞働だけどトラックに木星を積んだことだつてある
土星の環なら見たことがある、遺失物センターでね まあまあだつた
十五年ごとに環を失くしてゐるよ、土星も案外そそつかしいね
星のうちの惑星に棲んでゐる意味を考へてみたことがあるかい?
金星にあるユキヲンナ・テセラには男は棲んでゐないさうだよ
しんかい6500ではだめ もつと深いところで星は生まれてるんだ
きみはぼくの中性子星だッ!て、この口説き文句の意味わからない?
そろそろ出よう、醉つて誰彼かまはずにからむお月さまがうるさい
ぼくの橫でラヴァーズ・ロックを聽きながら寢てゐるきみも流れ星だな
久方のビルの谷間のくちづけを――しまつた、曉の明星 ルシフェルに見られた!
もう見えないけれど聞こえる。水星が歌ふ〽手を取り合つてこのまま……
 ☆……‥‥・・ ・
       ・ ・・‥‥……☆
白馬つていふか星葦毛の馬に乘つた王子樣ならいいな
逸走したりソラ使つたりするやうな馬ばかりなぜ好きになるかな
滿天の星つてこはい。見てゐるともぞもぞともぞもぞと動くの
死んで星になるつてつまり恆星ね。うーん、遠距離戀愛すぎる
あのときのぼんやりとした彗星の後ろ姿が今も見えます
 ☆……‥‥・・ ・
       ・ ・・‥‥……☆
フルートグラスの緣に口紅はもうない「ね?お星さまの味がするでせう?」
空耳ばかりしてゐるぼくの耳の穴をのぞけば星が見えるだらうか
かなふならスターフルーツをもういちど齧りあひたい、そんな夜です
ガードレールを蹴飛ばして空見上げればもぞもぞともぞもぞと動く星
きみの名をつぶやくだけさ それだけでどうつてこともない星たちが――
星がにじんでかぞへられないなんてことさへも今まで知らなかつたよ
けふも泣き暮らして步道橋を渡るときの天使に氣づかなかつた
あまいメロディーは知らないなんて嘘ついてどういふつもりだつたの?
 ☆……‥‥・・ ・
       ・ ・・‥‥……☆
胸の裡に死んだ女を棲まはせてゐるが――やつぱり遠いよ、そこも
綾瀨驛0番ホームで見た月はどこへ行つてももう見られない

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