菊ちやん 風花銀次
菊之助と名づけ愛しし陸龜を遺して妻ははや逝きしかも
名を呼べば驅け寄る龜のつぶらなる黑き瞳に妻がしのはゆ
菊ちやんと日にいくたびも聲をかけ龜が鳴くてふ春ぞかなしき
小松菜一把食べてもなほ足らぬげにわが顏を見る龜に聲なし
菊ちやんのために草摘み妻のため花摘む野邊に日照雨降りけり
部屋ぬちに放てば我のあとに付き從ふ龜の菊之助愛し
晝下がり龜が水飮む音にさへ驚く靜かなる部屋なりき
秋の夜長を讀書するわが足下に寄り添ひて菊ちやんは眠れり
手足投げ出して眠れる陸龜は故鄕の地中海を夢見る
妻ははやなくて万年生きるとふ龜と過ごせる餘生なりけり
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