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2017年8月7日月曜日

童話「トンキーとピョンシー」/ 志野 樹

トンキーとピョンシー    志野 樹

 トンキーは、ブタの男の子です。
 大きなことにかけては、村いちばんのブタ、トントンさんのむすこで、すみれ小学校にかよっていました。
 ピョンシーは、ウサギの女の子です。いろの白さでは、村いちばんのウサギ、ピョンタさんのむすめで、やっぱりすみれ小学校にかよっていました。
 トンキーとピョンシーは、とてもなかよしです。
 学校に行くときは、ピョンシーがトンキーのいえにむかえにいきます。
 トンキーは、朝ねぼうなので、いつまでもベッドでぐずぐずしているのです。
 ようやくおきたとおもっても、こんどは朝ごはんに時間がかかります。
 トンキーはたくさんごはんを食べるのです。
 おなかがはちきれそうになるまで食べないと、すぐにおなかがすいてしまって、学校に行っても、ごはんのことばかりかんがえてしまうのです。
 だから、ピョンシーがさそいにきても、まだ朝ごはんを食べています。
「トンキー、早く食べなさい。ピョンシーがまっているじゃないの」
 トンキーのおかあさんは、そう言いながら、トンキーの口にジャガイモのパイをおしこみます。
 それから、まだ食べたそうにしているトンキーのせなかにランドセルをせおわせると、学校へ行くふたりを、げんかんの外で見おくるのでした。
 学校からかえるときは、はんたいに、トンキーがピョンシーをいえまでおくっていきます。
 ピョンシーはなき虫なので、学校からのかえりに、いたずらっ子たちからいじめられるのです。
 トンキーはおとうさんににて、体が大きいので、いたずらっ子たちからピョンシーをまもっているのでした。
 
 すみれ小学校では、いま、なわとびのれんしゅうをしています。
 クラスの中で、いちばんなわとびがじょうずなのは、ピョンシーです。
 ふつうとび、ピョン。
 かけあしとび、ピョンコ、ピョンコ。
 あやとび、ピョンピョコ。
 にじゅうとび、ピョンピョン。
 さんじゅうとびだって、ピョンピョコピョーンとかんたんにとんでしまいます。
「ピョンシーすごいな」
 子どもたちは、みんなピョンシーをうらやましそうに見つめます。
 そのよこで、なんかいやっても、ただの一かいもとべない子がいました。
 トンキーです。
 いっしょうけんめいなわをまわして、とぼうとするのですが、足が地面からまったくはなれないのです。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
 トンキーは、あせをびっしょりかいてがんばります。
 でも、ぐるりとまわったなわが、足と地面のあいだをとおることはありません。
「なんで、ブタがなわとびしなくちゃいけないんだ。こんなことしてたら、すぐにおなかがすいちゃう」
 と、トンキーがさけびました。
 それを聞いたアヒルのヒール先生は、しかたがないわねという顔で、「おうちでれんしゅうしてきなさい」と言いました。
 
 学校からかえると、なわとびのとっくんがはじまりました。
 トンキーになわとびをおしえてくれるのは、もちろんピョンシーです。
「ぼく、なわとびなんてきらいだ」
 まだ、一かいもとべないのに、トンキーはもう、はあはあと、いきをきらしています。
「なんで、とべないのかしらね。こんなにかんたんなのに」
 そういって、ピョンシーは、ピョンピョンピョンピョーン。
 すごい、しんきろくのしじゅうとびです。
 そこへ、トンキーのおとうさんのトントンさんが、とおりかかりました。
「なわとびのれんしゅうかね?」
「トンキーったら、ブタになわとびはひつようないって言うんです」
 ピョンシーが言いました。
 トントンさんは、しばらくトンキーのれんしゅうを見ていました。
 そして、きっぱりと言いました。
「トンキー、おまえは太りすぎだ。うちのジャガイモばたけで少しはたらきなさい。そうすれば、かるくなって、なわとびだってとべるようになる」
「えー、おとうさんだって太ってるじゃないか。やだよ、ぼく、はたけではたらくなんて」
 トンキーが口をとがらせて言います。
「学校のなわとびができないくらい太っているんじゃ話にならん。とっとと、はたけに行きなさい」
 トントンさんは、まけずぎらいです。じぶんのむすこだけが、なわとびをとべないことがくやしいのです。
 トントンさんにおこられて、トンキーはしぶしぶジャガイモばたけへ行きました。
 ピョンシーもしんぱいになって、いっしょについていきます。
 トンキーとピョンシーは、まずジャガイモをほる手つだいをしました。
 トンキーは百こ、ピョンシーは二十このジャガイモをほりだしました。
「トンキーはすごいね。わたし、二十こしかほってないのに、つかれちゃった」
 ピョンシーがためいきをつきました。
 白い体のピョンシーはもちろんのこと、トンキーも土でよごれてまっ黒になってしまいました。
 つぎは、ほったジャガイモを手おし車にのせて、いえまではこびます。
 ピョンシーは二本足で立つのはじょうずでしたが、たくさんのジャガイモをのせた手おし車がおもくて、前にすすむことができませんでした。
「えーん、わたしぜんぜんだめだわ」
 ピョンシーがかなしそうに言いました。
「どれどれ、ぼくにかしてごらん」
 トンキーがピョンシーとかわりました。
 トンキーは、二本足で立つのが、じょうずではありませんでしたが、なんとか立ち上がると、せいいっぱいの力をこめておしていきました。
「うわー、トンキー、力もちね。すごいすごい、そのちょうし」
 ピョンシーにほめられて、トンキーはがんばること、がんばること。
 とうとうぜんぶのジャガイモを、いえの中まではこんでしまいました。
「トンキーは、なわとびはじょうずじゃないけど、いえのおてつだいができるほど、力もちなのね、びっくりしちゃった」
 と、ピョンシーが、わらいながら言いました。
 トンキーのおかあさんは、とてもよろこんで、ふたりをむかえてくれました。
「まあ、ふたりともありがとう。さあ、体をふいて、手をあらって、おやつをたくさんめしあがれ」
「ありがとう、おばさん。でも、わたしもうかえらなくちゃ」
 ピョンシーが言いました。
「じゃ、おやつをもってかえってね」
 トンキーのおかあさんは、たくさんのこけもものケーキをピョンシーにもたせてくれました。
「ぼくは、いらないや」
 トンキーが言いました。
「まあ、どうしたの? ぐあいでもわるいの?」
 いつも人のおやつまで食べてしまうトンキーですから、おかあさんがしんぱいしたのも、むりはありません。
「ううん、たくさんはたらいたから、ちょっとつかれただけだよ。すこしおひるねしてくる」
 そうこたえると、トンキーはじぶんのベッドに行き、おひるねどころか、よく朝まで、おきてきませんでした。

 つぎの日、学校ではまた、なわとびのじゅぎょうがありました。
 トンキーはなわをまわして、とび上がりました。
 あれ、やっぱり、なわは足にひっかかってしまいました。
「トンキー、がんばって。足と地面がはなれたわ。もうすこしよ」
 ピョンシーがおうえんしています。
 きのうは足と地面がくっついたままだったのに、きょうは、すこしだけとび上がることができたのです。
「がんばれー、空にあたまをつけるきぶんで、とぶんだよ」
 クラスのみんなが、おうえんをしはじめました。
「よいしょ、よいしょ」
 トンキーのかおは、まっ赤です。
 するっ
 足と地面のあいだをなわがとおっていきました。
「とべた!」
 みんながいっせいに声をあげました。
 トンキーはなにがおこったのかわからず、きょろきょろしています。
「トンキー、よくがんばったわね」
 ヒール先生がほめてくれました。
 一かいとべるようになれば、もうだいじょうぶ。
「なんだか、きのうはたらいたせいか、体がかるくなったみたいだ。それに、ばんごはんも食べなかったからね」
 なんと、すこしれんしゅうしたら、トンキーは五かいもとべるようになったんです。
「ブタは体が大きくて力があればいいって思ってたけど、やっぱり、かるがると、なわとびをとべるとうれしいや」
 れんしゅうがおわると、トンキーはピョンシーにむかって、こう言いました。
 五月のはずむような風が、あせをかいたトンキーのひたいを、きもちよくひやしていきました。

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