トンキーとピョンシー 志野 樹 トンキーは、ブタの男の子です。 大きなことにかけては、村いちばんのブタ、トントンさんのむすこで、すみれ小学校にかよっていました。 ピョンシーは、ウサギの女の子です。いろの白さでは、村いちばんのウサギ、ピョンタさんのむすめで、やっぱりすみれ小学校にかよっていました。 トンキーとピョンシーは、とてもなかよしです。 学校に行くときは、ピョンシーがトンキーのいえにむかえにいきます。 トンキーは、朝ねぼうなので、いつまでもベッドでぐずぐずしているのです。 ようやくおきたとおもっても、こんどは朝ごはんに時間がかかります。 トンキーはたくさんごはんを食べるのです。 おなかがはちきれそうになるまで食べないと、すぐにおなかがすいてしまって、学校に行っても、ごはんのことばかりかんがえてしまうのです。 だから、ピョンシーがさそいにきても、まだ朝ごはんを食べています。 「トンキー、早く食べなさい。ピョンシーがまっているじゃないの」 トンキーのおかあさんは、そう言いながら、トンキーの口にジャガイモのパイをおしこみます。 それから、まだ食べたそうにしているトンキーのせなかにランドセルをせおわせると、学校へ行くふたりを、げんかんの外で見おくるのでした。 学校からかえるときは、はんたいに、トンキーがピョンシーをいえまでおくっていきます。 ピョンシーはなき虫なので、学校からのかえりに、いたずらっ子たちからいじめられるのです。 トンキーはおとうさんににて、体が大きいので、いたずらっ子たちからピョンシーをまもっているのでした。 すみれ小学校では、いま、なわとびのれんしゅうをしています。 クラスの中で、いちばんなわとびがじょうずなのは、ピョンシーです。 ふつうとび、ピョン。 かけあしとび、ピョンコ、ピョンコ。 あやとび、ピョンピョコ。 にじゅうとび、ピョンピョン。 さんじゅうとびだって、ピョンピョコピョーンとかんたんにとんでしまいます。 「ピョンシーすごいな」 子どもたちは、みんなピョンシーをうらやましそうに見つめます。 そのよこで、なんかいやっても、ただの一かいもとべない子がいました。 トンキーです。 いっしょうけんめいなわをまわして、とぼうとするのですが、足が地面からまったくはなれないのです。 「うんとこしょ、どっこいしょ」 トンキーは、あせをびっしょりかいてがんばります。 でも、ぐるりとまわったなわが、足と地面のあいだをとおることはありません。 「なんで、ブタがなわとびしなくちゃいけないんだ。こんなことしてたら、すぐにおなかがすいちゃう」 と、トンキーがさけびました。 それを聞いたアヒルのヒール先生は、しかたがないわねという顔で、「おうちでれんしゅうしてきなさい」と言いました。 学校からかえると、なわとびのとっくんがはじまりました。 トンキーになわとびをおしえてくれるのは、もちろんピョンシーです。 「ぼく、なわとびなんてきらいだ」 まだ、一かいもとべないのに、トンキーはもう、はあはあと、いきをきらしています。 「なんで、とべないのかしらね。こんなにかんたんなのに」 そういって、ピョンシーは、ピョンピョンピョンピョーン。 すごい、しんきろくのしじゅうとびです。 そこへ、トンキーのおとうさんのトントンさんが、とおりかかりました。 「なわとびのれんしゅうかね?」 「トンキーったら、ブタになわとびはひつようないって言うんです」 ピョンシーが言いました。 トントンさんは、しばらくトンキーのれんしゅうを見ていました。 そして、きっぱりと言いました。 「トンキー、おまえは太りすぎだ。うちのジャガイモばたけで少しはたらきなさい。そうすれば、かるくなって、なわとびだってとべるようになる」 「えー、おとうさんだって太ってるじゃないか。やだよ、ぼく、はたけではたらくなんて」 トンキーが口をとがらせて言います。 「学校のなわとびができないくらい太っているんじゃ話にならん。とっとと、はたけに行きなさい」 トントンさんは、まけずぎらいです。じぶんのむすこだけが、なわとびをとべないことがくやしいのです。 トントンさんにおこられて、トンキーはしぶしぶジャガイモばたけへ行きました。 ピョンシーもしんぱいになって、いっしょについていきます。 トンキーとピョンシーは、まずジャガイモをほる手つだいをしました。 トンキーは百こ、ピョンシーは二十このジャガイモをほりだしました。 「トンキーはすごいね。わたし、二十こしかほってないのに、つかれちゃった」 ピョンシーがためいきをつきました。 白い体のピョンシーはもちろんのこと、トンキーも土でよごれてまっ黒になってしまいました。 つぎは、ほったジャガイモを手おし車にのせて、いえまではこびます。 ピョンシーは二本足で立つのはじょうずでしたが、たくさんのジャガイモをのせた手おし車がおもくて、前にすすむことができませんでした。 「えーん、わたしぜんぜんだめだわ」 ピョンシーがかなしそうに言いました。 「どれどれ、ぼくにかしてごらん」 トンキーがピョンシーとかわりました。 トンキーは、二本足で立つのが、じょうずではありませんでしたが、なんとか立ち上がると、せいいっぱいの力をこめておしていきました。 「うわー、トンキー、力もちね。すごいすごい、そのちょうし」 ピョンシーにほめられて、トンキーはがんばること、がんばること。 とうとうぜんぶのジャガイモを、いえの中まではこんでしまいました。 「トンキーは、なわとびはじょうずじゃないけど、いえのおてつだいができるほど、力もちなのね、びっくりしちゃった」 と、ピョンシーが、わらいながら言いました。 トンキーのおかあさんは、とてもよろこんで、ふたりをむかえてくれました。 「まあ、ふたりともありがとう。さあ、体をふいて、手をあらって、おやつをたくさんめしあがれ」 「ありがとう、おばさん。でも、わたしもうかえらなくちゃ」 ピョンシーが言いました。 「じゃ、おやつをもってかえってね」 トンキーのおかあさんは、たくさんのこけもものケーキをピョンシーにもたせてくれました。 「ぼくは、いらないや」 トンキーが言いました。 「まあ、どうしたの? ぐあいでもわるいの?」 いつも人のおやつまで食べてしまうトンキーですから、おかあさんがしんぱいしたのも、むりはありません。 「ううん、たくさんはたらいたから、ちょっとつかれただけだよ。すこしおひるねしてくる」 そうこたえると、トンキーはじぶんのベッドに行き、おひるねどころか、よく朝まで、おきてきませんでした。 つぎの日、学校ではまた、なわとびのじゅぎょうがありました。 トンキーはなわをまわして、とび上がりました。 あれ、やっぱり、なわは足にひっかかってしまいました。 「トンキー、がんばって。足と地面がはなれたわ。もうすこしよ」 ピョンシーがおうえんしています。 きのうは足と地面がくっついたままだったのに、きょうは、すこしだけとび上がることができたのです。 「がんばれー、空にあたまをつけるきぶんで、とぶんだよ」 クラスのみんなが、おうえんをしはじめました。 「よいしょ、よいしょ」 トンキーのかおは、まっ赤です。 するっ 足と地面のあいだをなわがとおっていきました。 「とべた!」 みんながいっせいに声をあげました。 トンキーはなにがおこったのかわからず、きょろきょろしています。 「トンキー、よくがんばったわね」 ヒール先生がほめてくれました。 一かいとべるようになれば、もうだいじょうぶ。 「なんだか、きのうはたらいたせいか、体がかるくなったみたいだ。それに、ばんごはんも食べなかったからね」 なんと、すこしれんしゅうしたら、トンキーは五かいもとべるようになったんです。 「ブタは体が大きくて力があればいいって思ってたけど、やっぱり、かるがると、なわとびをとべるとうれしいや」 れんしゅうがおわると、トンキーはピョンシーにむかって、こう言いました。 五月のはずむような風が、あせをかいたトンキーのひたいを、きもちよくひやしていきました。
2017年8月7日月曜日
童話「トンキーとピョンシー」/ 志野 樹
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