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2013年1月18日金曜日

短歌&随想「狼潤星」/ 齋藤幹夫

狼潤星 -やほよろづの星々- 齋藤幹夫

風花のふいに終はりて天空に冴えわたる天狼星シリウスの遠吠え

 シリウスは大犬座のその口元で咆哮のやうな輝きを魅せる。オリオン座のペテルギウス、小犬座のプロキオンとともに冬の大三角形を形成し、地上から見る恆星の中では二番目に明るい。名はギリシア語で「燒き焦がすもの」の意のセイリオスに由來するとされるが、私はあの靑い輝きに、天狼星の名からか、潤みを帶びた悲しげな狼の遠吠えを連想する。  古代エジプトの曆には閏年がなく、農民はシリウスの動きを農期の基にしてゐたといふ。そもそも曆を必要としたのはナイル川の氾濫の時期を豫測するためであり、農民にしてみれば、長年に渡り受け繼がれてきた天體の動きによる知識のはうが、曆そのものより信用たり得るものではないか。しかしながら古代エジプト人は一年が三百六十五日プラスαといふことを理解してゐたといふ。それが天體の動きからであるとは、言はずもがなのことである。  地球の公轉周期は三百六十五日五時閒四十八分四十五秒九九三六。閏年はその差異を補正するためもの。本來なら閏年は「じゆんねん」と讀み、本邦では「うるふどし」と訓じた。それは「潤ふ」からのみを當てたもの。また、閏年は四年に一度來るものと多くの人が思つてゐるが、實はさうではない。現在私達の曆はグレゴリオ曆に準じてゐるが、グレゴリオ曆では閏年の條件が決まつてゐる。基本的に西曆が四の倍數の年は閏年(三百六十六日)だが、百で割り切れる年は三百六十五日。しかし、四百で割り切れる年は閏年となる。つまり西曆二一〇〇年は、二月二九日が無い年となる。閏年=オリンピックといふ槪念の持ち主の方は氣を付けて頂きたい。生きてをられれば、の話だが。  閏年に廻つてくる干支は、子、辰、申の三つといふことは、意外に皆は意識してゐないし、閏年の基本においては必ずしも當て嵌まらない。かく言ふ私は申年で、閏年の生まれ。閏年、つまりオリンピック・イヤーには決まつて惡いことが起きている(そもそも生まれたことが惡かつたのか)。擧げれば、麻疹はしかによる高熱、骨折、崖から轉落し入院、轢き逃げ被害、頸椎ヘルニアの發症等等。必ずしも四年に一度、惡いことがあるといふのではなく、何も無い五輪年の時もあるのだが、昨年二〇一二年にいたつては直腸癌發症と來た。おまけに人工肛門まで倂設(幸ひにも一時的で濟んだのだが、これには正直、堪えた)。今から想ふ。もし二〇二〇年、オリンピック開催地に東京が決定されたら、私は死ぬのではなからうか、と。外國での開催でこの態である。これが目と鼻の先で開催されると想像するだに、私のゆくすゑもあはせて、もう、狼が遠吠えをするごとく悲しく、なほかつ心ときめいてしかたがない。

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