蟲雙紙〈二十四〉 風花銀次 叩き網はのどかにやりたる。はげしきはわろく見ゆ。 捕虫網ははしらせたる。吸蜜中の蝶などを捕らへむに、ふと見やるほどもなくひらめき、そよかぜにふかれたるごとき花ばかりのこりたるこそおかしけれ。はたはたと花散らすはいとわろし。虫とりてものも、名人達人の域に達すると、さながら武芸者の風情で、なにげなく構えた捕虫網を一閃させれば、花にとまっていた蝶だけが網の中に入っている。花を散らしちまうような野暮はしない。 しかもぶんまわす捕虫網は、どんなに短くたって、佐々木小次郎のいわゆる物干し竿なんかよか、うんと長い。 さあ、とるぞ! てな殺気を放っていると虫に逃げられっちまうのは、その殺気を虫に気取られるからなのか、体が縮こまって動きが固くなるからなのか、あるいは両方なのかは、あたしにはわからないけれど、結局のところ自然を相手に遊ぶには自然体がよろしいてことにつきるんだろう。 とはいえ、そんなこたあ遊びながら身につくもので、ややこしい理屈があるわけではなく、いちいち考えることでもないてのは、どうやってバランスをとるか考えながら自転車に乗るやつがいねえのと同じことだね。
2013年2月27日水曜日
蟲雙紙 024 「叩き網は…」/ 風花銀次
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