夏の痕 風花千里
牛乳とほんの少しのいらだちが炭化してをり鍋のそこひに
猛毒が乳を介して溶けてゆくらし いかづちに傾ぐ樫の木
洗濯槽のぞきこむうち湧きあがる耳鳴りのどこかなつかしきかな
わたくしと初夏の風にくるまれて汗ばむきみは野芹のにほひ
わが唄ふわらべうたとらへむとして小さき耳は開くひるがほ
行水ののちに裸で転ぶ子に球根植物植ゑる日近し
瞬きのあはひに夜のほころびを見つけて泣いてゐる子のありき
寝言にて子をあやししを羞ぢてゐる夫に潮の香りが潜む
彗星の尾が夜に滲んでゆくやうに子のぬくもりを受けとめてゐる
二の腕がたくましくなる夏の痕を残してくすむ扇風機のはね
0 件のコメント:
コメントを投稿