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2013年4月29日月曜日

短歌&随想「烏磔星」/ 齋藤幹夫

烏磔星 -やほよろづの星々-  齋藤幹夫

櫻散り梢の先にはりつけの闇夜の烏かがやきにけり

 日本神話の八咫烏は神武東征の際に、神武天皇一行を熊野から大和へと道案内をし皇軍を勝利に導いた。その功績は現代に於いても崇められ、八咫烏を祀る八咫烏神社、熊野那智大社、賀茂御祖神社もある。また陸上自衞隊の中央情報隊、中部方面情報隊、そして日本サッカー協會のシンボルマークになつてをり、一九九七年に發見された火星と木星の小惑星には後に八咫烏と命名されるなど、希臘神話の烏とは月と鼈の違ひがある。  神のアポローンと人閒のコローニスは戀仲ではあるが、中中逢瀨を重ねられない。といふのも片や神、片や人閒と來てゐるから自由に逢ふ事も出來ない。逢ひたくても逢へない一柱と一人の閒には、互ひの樣子を傳へるべくアポローンより遣はされた、人語を操る銀色の烏がゐた。この烏は、コローニスが浮氣してゐると嘘を吐き、己が遲刻の言ひ逃れをする奴だとか、コローニスが知人の男と喋つてゐるのを見て密通してゐると勘違ひした粗忽者とされる。銀烏の出鱈目な言葉をアポローンは信じ込み、激怒する。閒男を殺さうと矢を放つが、射拔かれた相手は事もあらうに最愛のコローニス。そもそも閒男も端からゐなかつた  烏座の恆星は然程明るくはないが春の南の空に目立つて視える。本邦では帆掛星、四つ星といふ名前で呼ばれ、事實歪んだ臺形を成してゐる。この四つの星は虛言妄言戲言をアポローンに告げた烏を天幕に打ち付けた釘。これは、お前の所爲でおいらのすけは死んぢまつたぢやねえか、と怒りの矛先を變へたアポローンが烏に對して行つた仕打ち。言葉を取上げられ、銀色の羽を眞黑に變へられた擧句の烏の成れの果て。それにしても、烏の言葉を信じ込み、事實確認もせず感情に任せて矢を放つたアポローンの行動は如何なものか。己の事は棚に上げて、烏への仕打ちは八つ當たり染みてゐる。私はこの磔の烏が憐れでならない。  烏の全てが黑い譯ではない。西日本、特に九州に飛來して來る黑丸鴉は黑白。天然記念物の瑠璃懸巢は言はずもがなの烏屬。稀にの嘴太鴉を見かけるが、往往にして他の黑い鴉に虐められてゐる、やうに見える。鴉は色の識別が出來ると言ふから、虐めてゐるとしたら差別のやうなものだらうか。色ばかりではなく、人閒の顏も識別出來るとかで、かなり賢いらしい。それでも世閒樣に忌み嫌はれてゐるのは、その黑を纏つた不吉な容姿ばかりではなく、御近所の奧樣方に言はせれば、塵袋を突つ突いては、其處等邊りを散らかしてゆくからだとか。頭は良いが躾がなつていない、人閒の嫌はれる型と似てゐるやうで。

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