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2012年11月28日水曜日

蟲雙紙 011 「恋し奏するこそ…」/ 風花銀次

 蟲雙紙〈十一〉       風花銀次

恋し奏するこそをかしけれ。翅ふるはせて御前のかたにちかひたてたるを。愛し舞踏しさわぐよ。

「夏に歌ってたんなら、冬は踊んな」
 と蟻からいわれちゃうのは、では蟋蟀こおろぎの役回りなんだそうです。国によってさまざまにアレンジされている伊曾保物語なんで、特別不思議はないけどね。
 はい、蟋蟀が歌うのは(本邦では夏でなく秋てことになってますが)雄のみで、ほとんどの場合おねえちゃんを引っ掛けるためのラブソングてのは皆さんご存じのとおり。ただし、歌のレパートリーがひとつでないことはご存じない方も多いんじゃないでしょうか。
 まず雌をおびくための誘引歌、のこのこやってきた雌に「愛してるぜ」と歌う求愛歌、もうひとつが雄同士で戦って勝ったときに歌う闘争歌で、計三曲。
 いずれも前翅のクチクラが特殊化してできたやすりのような部分をこすり合わせて歌います。というか演奏します、といったほうがいいのか?
 まあ、どっちでもいいや。
 そんで踊ってるように見える奴がいるとしたら、おそらくは雌にふられたにもかかわらず、追っかけながら、しつこく歌い続けるあわれな雄だと思うよ。

1 件のコメント:

  1. 【現代語訳】
    恋をして、音楽を奏でるのはステキ。翅をふるわせて彼女に誓いをたてるの。愛しあって、踊り、とても心が落ち着かないわ!

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